偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜その②(2020.6)

というわけで、こっちはヴァーホーヴェン以外です。




ブラックシープ
ロスト・イン・トランスレーション
UFO少年アブドラジャン
ネクロマンティック
ネクロマンティック2




ブラックシープ

ブラックシープ [Blu-ray]

ブラックシープ [Blu-ray]

  • 発売日: 2020/06/05
  • メディア: Blu-ray


遺伝子操作によって凶暴化した羊を描いたニュージーランド産B級ホラーコメディ🐏

これがね〜好きなんですよ。

まずやっぱりニュージーランドの緑あふれる牧場とたくさんの羊たちというロケーションがずるいですよね。この風景だけで飽きずに観れますもん。

そして、キャラクターもとても良い。
こういうホラーコメディって、ディープな内面描写もないのに何故だかキャラクターに愛着が湧いてしまうんですけど、なんでなんだろ。きっと、「羊に襲われる」みたいな楽しい体験を共有するからでしょうね。
本作のキャラクターたちも、牧場の息子なのに羊恐怖症の主人公をはじめ、知り合いにいそうなレベルでめちゃくちゃ可愛くてちょっとイタいヒロイン(パイスラが最高)に、ワイルドな友達ともっとワイルドなババア、そしてめちゃ悪役らしい悪役の兄貴と、忘れちゃいけないワンコちゃんと、みんなキャラ立ちがステキ。
そんな彼らとの冒険の数々が思い出となってこの切ない愛着を生むわけです。

で、もちろんホラーコメディとして普通に面白いんすよ。
羊さんだからとナメてたら、ゴア描写はけっこうガチガチ。羊に噛まれるところまでは可愛いのに、その後がグログロっていうギャップに萌えます。「羊男ニュージーランダー」なんて言いたくなる変身シーンも素晴らしい🐏
広大な土地とはいえひとつの牧場の敷地内で起こるクローズドなお話ながら、その中で手を替え品を替え色んな展開があるので飽きません。
最後はゾンビ映画でお馴染みの光景になるわけだけど、これがゾンビじゃなくて羊の群れとなるとやっぱり可愛いんですよね。
解決の仕方もホラーコメディらしいバカバカしさで大好きだし、最後までしっかりお約束を踏襲してくる律儀さも好感が持てます。


そんな感じで、個人的にはなかなか偏愛の作品。
古き良きB級ホラーをしっかりと真面目に受け継ぎながら、産地ならではの特産品を盛り込むことで忘れ難い個性を残した名作だと思うです。はい。




ロスト・イン・トランスレーション

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

ロスト・イン・トランスレーション [DVD]

  • 発売日: 2004/12/03
  • メディア: DVD


くだらないサントリーウイスキーのCMの仕事で東京に来たビル・マーレイと、夫の仕事についてきたスカーレット・ヨハンソン。異国の地で出会う2人の交流を描いたお話。


なんつーか、日本って陰気臭いっすよね。町の色合いとかが。
そんな東京にビル・マーレイとスカヨハがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!といった次第。
とにかく良い表情しかしないビル・マーレイが可愛すぎるし、スカヨハはいつ見ても美しすぎて死にたくなります。

彼らの目を通して観る不思議都市東京は、日本人の私からすると見慣れたものなのにめちゃくちゃヘンテコに感じて面白いです。
東京には美しいものと醜いものが2:8くらいの割合であって、醜いものが映るたびになんだか恥ずかしくなるけど、たま〜に美しいものも映ってまぁ悪くないかなと思ったりもして。

異国の地で過ごしている......というせいだけではない2人の孤独が、しかし異国の地で際立って、友人とも恋愛ともつかぬ"共犯"関係を結ぶのがステキ。特に何かでかいことは起きないけれど、小さな出来事の積み重ねが少しずつ2人の距離を近づけていく様には静かな緊張感があって面白く観れました。絶妙に分かりやすいけどわざとらしくない表情の演技もさすがのお2人。

そして、静かに積み重ねたものが少しだけ決壊するようなラストにムズムズ。旅先で出会った忘れられない人と別れる時の言葉にならない気持ちを、言葉にならない代わりに映像で完全再現しててエモい。身長の差もこの画のためだったのかと、小さな小さな伏線回収に泣きました。

あと、風をあつめて、すごく良い使われ方!




UFO少年アブドラジャン

UFO少年アブドラジャン [DVD]

UFO少年アブドラジャン [DVD]

  • 発売日: 2002/05/01
  • メディア: DVD


ウズベキスタン発、自主製作みたいなチープSFの良作です。

蜂視点のPOVで始まる冒頭から一貫して、低予算なりに不思議な映像を作ろうという意気込みが随所に感じられて面白かったです。

UFOに乗ってやってきた少年を育てることにしたら宇宙のパワーでいろいろ良いことが起こるんだけど、それが現実には良い方向にばかりは働かず......といった寓話的な筋立て。
いちおうSFと括ってみましたが、SFというよりは、村人たちの卑近な生活風景とファンタジックな映像のギャップが面白い日常系ゆるふわ(と見せかけて毒気満載)コメディっつー感じ。
ストーリーの大枠自体はかぐや姫並みに単純だけど、細部の面白さもかぐや姫みたいで、一つ一つのエピソードがなんとなく心に残ります。

この、ゆったりした空気が流れつつ、裏にはなにか不穏な暗喩が隠されていそうな感じが堪らないっすね。
かと言って私は全然読み取れてるわけじゃないけど、この表裏の激しそうな感じ、好きですね。




ネクロマンティック

ネクロマンティック [Blu-ray]

ネクロマンティック [Blu-ray]

  • 発売日: 2015/04/02
  • メディア: Blu-ray


どこにもレンタル置いてないけどBDは安かったので買っちゃいましたよ。


ネクロフィリアカップルのお話です。
本国ドイツでは上映禁止にされるほどのインモラルな作品で、本物の死体が使われているという噂もあったようです。
ただ、そんなふうに期待しちゃったので実際観たら死体は作り物だし動物虐待のシーンもほんとにはやってないっぽいので安心。

思ってたよりエロもグロも控えめではあるのですが、雰囲気が異様なために悪い安っぽさはなく、シリアスで暗い熱量を放つ生々しい青春映画として愉しめました。
彼女と喧嘩別れするシーンとか普通に泣いた。
あと、一瞬だけ映る頭半分チョンパ爺さんめちゃ良かった。

エロいシーンでいちいち綺麗な音楽が流れるのは良かったけど、エロいシーンがめちゃくちゃほわんほわんほわんってエフェクトかかっててよく見えなかったのが残念ですね。あとコンドームつけててもあれは痛くないのかよ......。強靭なおま○この持ち主でした。




ネクロマンティック2

ネクロマンティック2 [Blu-ray]

ネクロマンティック2 [Blu-ray]

  • 発売日: 2015/04/02
  • メディア: Blu-ray


前作のラストをモノクロでリプレイしてはじまる正統続編。

前作の主人公と喧嘩別れした元カノが、今作では主人公になります。

2作目なので監督もこなれてきたのか、変な言い方ですけど映像に分かりやすいカルト感が出てきてますね。やけに凝ったカメラワークを使ったりしてるあたりオタクっぽくて好きです。

冒頭からして、フェチ丸出しな脚の撮り方とか、エロ暗喩っぽく挿入されるナメクジとか、くるっと回る墓掘りのシーンのカメラワークとか、アングラな感じが最高っす。フェチといえば、ゴム手袋とか背骨とかもすごい好き。監督とは性的な趣味が合うかもしれない......。

またデートのシーンは、よく晴れたのどかな休日の午後なんだけどどこか陰のあるローファイな映像で、絶妙なインディー感を出しててめちゃくちゃ良かったです。


ストーリーも前作よりは開かれた印象です。
ネクロフィリアの青年の鬱屈というパーソナルなテーマだった前作から、今作はもうちょい広く「マイノリティの生きづらさ」といったテーマが感じられます。
「誰もが同じものに興奮するわけじゃない!」という力強い異端宣言には、こういう気持ち悪い映画を観て喜んでる1人の変態として喝采を送りたいですね。よくぞ言ってくれました!

しかしそんなこんながあるだけに、異端者の孤独を強調する美しくも醜悪なラストにはじんわり涙腺が熱くなりました。ああいう光景は好きですけどね。

アザラシくん......。