偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜(2020.3)

はい。今月はもうめちゃくちゃたくさん映画観ました。特にトリアーとベルイマンにハマったんですが、そのへん書いてくとすごい量になってるのでその2人の作品はまた個別にまとめます。
というわけで、それ以外のやーつ。






ウィッカーマン(1973)
アメリカン・サイコ
DAGON
処刑山2 ナチゾンビvsソビエトゾンビ
桐島、部活やめるってよ




ウィッカーマン(1973)

ウィッカーマン [DVD]

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  • 発売日: 2019/06/07
  • メディア: DVD


ハウイー警部は、「行方不明の少女が"サマーアイル島"にいる」という手紙を受け取り、捜査のため島を訪れる。
敬虔なキリスト教徒の警部がそこで目にしたのは、性的な信仰を持つ異教徒たちだった。そして、島には"五月祭"の日が近づいていて......。


70年代のイギリスのカルトなスリラー映画として以前からマイナーな人気を誇っていた作品ですが、『ミッドサマー』への影響から再び脚光を浴びています。
なるほど、今見るとめちゃくちゃミッドサマーが下敷きにしてるのが分かります。これを恋愛映画にするとああなるのか、と。


映像はなんかこう、天気が悪い感じ......。
常に曇天のちょっと憂鬱な印象の画面が独特の不穏さや居心地の悪さを演出しています。

警部が島に入ると、もうとにかく「ちょっと厭」なことばっかりが起きるんですね。
人が死んだり警部がボコられたりするわけじゃなく、なんとな〜く、厭な感じ。
パブで若者たちが下品な歌を楽しく歌ってたり、裸をよく見かけたり......。キリスト教徒ではない私ですらなんとなく居心地の悪さを覚えたので、熱心なクリスチャンの警部の憤りたるや......。
一方で、島民も見たところ別に悪いことしてるわけじゃないので、警部への肩入れ半分、「他所の信仰にケチつけるなよ」という思いも半分のアンビバレントに厭な気持ちになりました。
とは言いつつ、フォークソングでミュージカルという非常に牧歌的な側面もあって、それが気持ち良いのがまた気持ち悪いのも見事。

終盤までは特に変わったことも起きないのになんか見入っちゃうところからの、終盤はまさに「祝祭が、はじまるーー」。
そっから先はもう、ただただ祝祭の楽しさに心躍らせながら観るのみ!
しかし最後の最後であんな皮肉によってテーマを浮かび上がらせるとは......。

ちなみに脚本は「探偵 スルース」やクリスティのシリーズもやってる人。ミステリファンの琴線にも触れるすげえお話でした。




アメリカン・サイコ


金持ちイケメン一流サラリーマンが実はサイコ殺人鬼っていうお話。


初っ端からクリスチャン・ベイルの肉体美が炸裂。男になんの興味もない私でもうひゃあ抱かれてたい///と思ってしまうくらいの、超越的な美しさ。

しかし、本作のテーマは現代社会における個性や内面の喪失というものでして、外面が美しければ美しいほど、それが空虚なものに見えてしまうという皮肉も込みでの素晴らしい筋肉なんですね。

そのテーマは、例えばカッコいい名刺を作って友人たちと見せ合うというギャグでしかない行為にも現れていて。
これ、名刺だから「エリートサラリーマンワロタw」ってなるけど、私が今こうして書いている映画レビューにしたところで、他人の感想とさして変わらないものをさも自分の個性かのように見せているだけの自己満足の産物に過ぎないのであって、肥大した自意識のわりに誰も彼も少し離れたところから見れば個性なんて分かんないのは我々も作中の主人公らもなんら変わりないと言えます。
個性的と言われる芸能人やミュージシャンにしたところで、「個性的な人」という類型にハマっているにすぎない。
性別や世代でくくるなと言ってみても、じゃあそういう枠を取っ払って1つの私という人間だけを見たときに他の個体となんの違いがあるのだろうか......。

なんてことを、ファックしながらポーズ決める主人公を見ながら思ってしまいました。レザーフェイスのまねっこするのも空虚で......。
ラストは、解釈の分かれるところだと思いますが、正直どっちでもいい。どっちであろうと、みんなそんなことには興味がない。......という皮肉がまた素晴らしいです。

あと、一応のヒロイン枠のクロエ・セヴィニーがめちゃくちゃ可愛かった。
はっきり言ってギャロにフェラチオした人という認識しかなかったですが(『ブラウンバニー』)、本作でもめちゃくちゃエロかったです。めちゃくちゃ可愛かった。好きになっちゃう。




DAGON

DAGON [DVD]

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  • 発売日: 2002/10/17
  • メディア: DVD


クルーズを楽しむ2組のカップルが嵐に遭い辿り着いた島は、海の邪神(?)ダゴンを崇めるヤバい村だった!


ユズナ製作ゴードン監督という黄金コンビによる作品なので当然ながらとても良かったです。

この人たちの映画ってB級なりに雰囲気むんむんで安っぽく感じないところが良いですよね。
本作も、雨に閉ざされた邪教の島というロケーションが抜群によくって、島民たちのビジュアルや態度も不気味で不穏で最高でした。
キャラクターも、オタクっぽい主人公、カッコいい彼女、妖しいイカ娘、なんだかんだいい味のおっちゃん、小物感がすごい神父さんなどそれぞれ個性的で素敵ですね。

グロさはそこまで......と思いきや、終盤では色々とエグい映像を見せてくれてまぁ満足。

話の流れは追いかけられて逃げてというけっこうシンプルなもので、「原作ラヴクラフト」を期待すると物足りないかも知れませんが、ソリッドなシチュエーションのホラーとして見ればなかなか面白く、潔くここまで内容を削ぎ落としたことにむしろ好感を持ちました。
終わり方も切なくていいよね。なんかこう、わちゃわちゃやってて最後いい感じに終わるB級ホラーって好きなんすよね。いいもん観ました。




処刑山2 ナチゾンビvsソビエトゾンビ

DEAD SNOW 2: RED VS DEAD

DEAD SNOW 2: RED VS DEAD

  • メディア: DVD


前作で片腕を失った主人公だが、なんとか逃げ延びて下山する。しかし、ナチゾンビ軍はまだ目的を果たしていなかった......。


前作から7年越しの続編が、ようやく日本でも公開されたので観てきました。

とりあえずめちゃくちゃ面白かったです。
前作はゴア描写は行きすぎて笑えたもののシリアスな雰囲気のゾンビ映画でした。しかし、前作ののちゾンビランドを筆頭にゾンビコメディブームが到来。その影響からか、ノルウェー産の本作もアメリカのゾンビコメディみたいな感じになってました。
この辺前作のファンからすると複雑かも知れませんが、私は前作にさしたる思い入れもないしゾンビコメディ大好きなので楽しめました。

まずキャラがいかにもっすね。『死霊のはらわた』のアッシュや『シャークネード』のファンよろしく、1作目を生き延びたことで戦士として覚醒した主人公。新キャラとしてキュートなオタク3人組、博物館長、『死霊のえじき』的なペット系ゾンビと濃い面々への愛着で物語が牽引されます。突っ込みどころがありすぎるのも最高!

しかしキャラ萌えコメディにはなりつつもグロ描写の不快感はさすがで、血よりもゲロのがたくさん出るあたり気持ち悪いし、内臓は便利なロープでしかないし、人間に尊厳はない!!!登場人物にナチュラルに倫理観がないところが最高です!!!
そして噛まれても感染するわけじゃないからバトルはもはやただの殴り合いで原始的に面白かった。

そして、ラストシーンは倫理観が行き着く果ての地獄のような天国のような光景に戦慄。アレは腐ってないの?......なんて野暮なことは言いません(言った)。

今のところさらなる続編の話は聴きませんが、1と2の間も長かったので今後無いとも言い切れませんよね。期待はせず楽しみに待ちたいと思います。




桐島、部活やめるってよ

桐島、部活やめるってよ

桐島、部活やめるってよ

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video


とある高校。バレー部のエース桐島が部活をやめるっていうニュースが校内を駆け巡る。
タイトルにもなってる「桐島」本人は出てこず、周辺の生徒たちを俯瞰で描いた青春群像劇、
原作は未読ですが、聞きかじったことによると、原作は人物ごとに章立てられているのに対し、映画では曜日によって章立てる形に再構築されているようです。


高校生の日常を描く群像劇なのではっきりとしたストーリーの主軸のようなものはありません。
しかし、桐島が部活をやめたことの波紋が、各部活で試合や発表会を控えた時期の学校内に広がっていき、それによって登場人物たちがそれぞれ何かしらの変化を迎える......というところで一本筋が通っていて見やすいです。そのへんはさすがの喜安さんですね。

そして、本作のキモはそのリアリティ。
スクールカースト」という明文化されてるわけでもねぇのに確固として厳然と学校の中に存在するルールが題材なので、学生時代にこの枠組みに組み込まれていた人間ならば誰もが何かしらの感情を抱くはずです。
個人的には、地味なカースト底辺オタク......それどころか、映画部で映画甲子園に参加してたことまで、あと眼鏡かけてて実はイケメンなことまで、何から何まで神木隆之介と自分の境遇が重なったので、「そうか、私が神木だったのか......」という気持ちになりました。
しかし、高校の時の私に彼のような情熱はなく、なんなら今だってないので、同じオタクとして彼の真っ直ぐさに憧れを抱いたりも。
とはいえクラスでは酷い扱いで、①基本的に存在を認識されない、②私を認識した人間は私を嘲らなければならない、③私と親しい人間は私同様キモい、という設定を与えられているところも同じなのでやはりかなり感情移入しちゃいました。

一方で、当時は「エネミー」という1単語でしか認識していなかったカースト中〜上位の人物たちにもそれはそれで悩みや葛藤があったのだと、今にして思えば理解できたのも面白かったです。
橋本愛は私の嫌いなタイプの女だけど、こうして見れば彼女の気持ちも分かる。それどころか松岡茉優に至っては高校生当時なら「死ね(けどやりたい)」くらいの感情しか抱かなかったであろう人間ですが、そんな彼女にすら寛大な気持ちで共感しちゃったりするからすごい。
結局あの世界で私たちはそれぞれの役割を必死に演じて、主人公から端役までみんなそれなりに悩んだりもしてたんだなと、俯瞰の視点で見せてくれる素晴らしい作品でした。

そして、「青春は爆発だ」と言わんばかりのクライマックスはエモい。そして、エモいお祭りのあとのあとの祭りは永遠の陽光となって僕らの目に焼き付くんだ。


「青春」という2文字に、平仮名4音以上の何かを読んでしまう人には鋭くぶっ刺さる鉄風のような映画でした。