偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

米澤穂信『巴里マカロンの謎』読書感想文

実に11年ぶりの小市民シリーズ最新刊。
......といっても「冬期限定」ではなく4つの短編を集めた作品集です。

てっきり春夏秋冬の四部作だと思っていたので番外編とはいえ1冊余分に読めるのは嬉しいですね。ただ、やはり冬期の名を冠した作品もそろそろ読みたいところではあり......。
まぁ、こうしてシリーズが再開されたということは、続報もそう遠くないうちに聞けるのかとは妄想しちゃいますが。

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)

巴里マカロンの謎 (創元推理文庫)


というわけで、本作について。

時系列としては、春期(1年生の春)と夏期(2年生の夏)の間にあたる、1年生の秋から冬にかけて。
各話ともタイトルの通り、2人がいろんなスイーツに纏わる事件に遭遇するお話ですが、「小佐内さんが新しくオープンしたお店にスイーツを食べに行く!」というパターンは第1話のみ。他の話はちょっとずつシチュエーションが異なり、ミステリとしてのテーマもそれぞれ違うので、スイーツ的にもミステリ的にも1冊で色んな味が楽しめました。

また、新キャラも登場。なかなか良いキャラなので、冬期にも出るかはともかく、またこういう番外編くらいには出てきてほしいっすね。

そんな感じで、以下、各話の感想。





「巴里マカロンの謎」

名古屋までマカロンを食べに行ったふたり。マカロン3つのセットを頼んだ小佐内さん。でもお手洗いに行ってる間にマカロンが4つに増えていて......?


表題作ではありますが、個人的には一番いまいちでした。

カロンが1個増えるという謎が描かれるわけですが、作中に「三つのマカロンが四つになって、わあいって喜んで口に入れちゃうひとはあんまりいない」という一文があるのがもう、相容れないとしか言いようがなく......。いや、私だったらわあいって喜んで食うけどな......。減ったなら怒るけど増えたのに深刻ぶって謎解きしなくても......。なんて思ってしまった時点で「謎」への興味が1ミリも湧きませんでした。
真相も、飛躍してる割には捻りは弱い印象。
まずどのマカロンが増えたか?から始まり、途中でさらに謎が増える構成は面白かったです。





「紐育チーズケーキの謎」

とある中学校の文化祭に、チーズケーキ目当てでやってきたふたり。
しかし、小佐内さんは、男子生徒同士の争いに巻き込まれて拉致(?)されてしまい......。


いつもの上から目線で文化祭を見て回る小鳩がまず面白い。
チーズケーキに関するちょっとした講義も、良い。思わずコンビニに走りたくなりますね。
ミステリとしては、小佐内さんがどうなったのかというWhatっぽい謎と、小佐内さんはどうやってそれをしたのかというHowの複合で魅せてくれます。
トリックは小粒ながらもなかなか面白く、"犯人"の頭の回転の早さにぞっとします。
そして、意外とシリアスな真相が残す余韻も良い。これが古典部だったらまた違った後味になりそうですが、小市民の2人はあくまで小市民ですね。





「伯林あげぱんの謎」

新聞部で決行されたマスタード入りあげぱんのロシアンルーレット。しかし、誰もマスタード入りのものを食べたと名乗り出ない。誰かが嘘をついているのか......?


これは凄かったです。
オチこそ早すぎる段階で想像がついてしまいますが、しかし推理パートが圧巻。
全ての描写が伏線として回収され、ロジカルな推論の気持ちよさを味わうことができました。
また、オチは分かるとはいえ、どうしてそうなるのかまではハッキリと分からなかったので、あまりのことに吹き出してしまいました。終わってみると、出発点の光景が鮮やかに蘇りますね。





「花府シュークリームの謎」

秋桜が飲酒の罪で停学になった。しかし、本人は身に覚えがないと小佐内に相談し......。


「はなふ」ってどこかと思ったらフィレンツェ
第3話だけ1回休みだった秋桜ちゃんがまたも登場。
タイトルはシュークリームなのにいきなり善哉を食べるふたりに笑う。シュークリームも善哉もどっちも食べたい。
そして、タイトルがシュークリームなのに内容はややほろ苦め。
正直なところ、伏線はあるにしろちょっと偶然が過ぎる気がして謎解きにはあまり盛り上がれなかったけど、ラストシーンの美しさ(?)が良かったです。白昼夢の世界に誘われるような幻想的な結末。ステキ。