偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜(2019.10〜11)

はい。
先月は映画自体あんま見てない上に見たやつは見たやつで単体で記事にしてしまったためこのコーナーお休みにしましたが、今月はいろいろあるのでやります!

嫌な感じの恋愛映画が多かったので心がしんどいよ......。






レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで
ふたりの5つの分かれ路
ことの終わり
ワンダーランド駅で
マローボーン家の掟
映画 すみっコぐらし とびだす絵本とひみつのコ




レボリューショナリー・ロード/燃え尽きるまで


ブルーバレンタインと肩を並べる最近の夫婦崩壊ムービー......と聞いちゃったら観るしかねえというわけで、ブルーバレンタインと同じ日に観ました。そしたらマイナス掛け合わせてプラスにしてしまえ〜とB'zが歌っていたように、なんか鬱×鬱で変な元気が出てきました。


レオ様演じるフランクと、ケイト・ウィンスレット様演じるエイプリルの夫婦が崩壊していく......という、タイタニックの黄金コンビを悪意満点に復活させたクソ映画ですわ。
(あと、心を病んだ男の役でマイケル・シャノン様も出てて超豪華)。
また、監督は「アメリカンビューティー」の人で、ケイト様の"当時の"夫だそうです。こんな映画一緒に撮ったらそりゃその後離婚するさ!知らんけど!


ブルーバレンタインとは違い、構成はほぼ一直線で、あそこまでリアリティ重視じゃなくてちょっと演劇っぽさもある感じの作品でした。
なんせ、主役夫婦の罵り合いが激しすぎて名優2人が悪ふざけしてるみたいにしか見えなくてギャグじゃないですか。さらにマイケル・シャノンの頭おかしいのに全てを見通してる感じもめちゃくちゃ良さがありました。
でも、ちょっとわざとらしいくらいなのに気づけば我が身に置き換えてヒリヒリとしたビターエモーションを感じているから不思議なもので......。

で、ここまでブルーバレンタインと比較してきましたが、あちらは「恋愛映画のその後」という言わばアンチ恋愛映画だったのに対し、本作は別に全然恋愛映画ではないです。
2人が恋をして結婚するまでのお話なんかあんまりなくて、ほとんどが考え方の違う他人と家族になってしまうことの悲劇を喜劇的に描いているわけなので、恋愛とかじゃなくてもっとでかい人生というものを突きつけられる感じっすね。

2人はどっちもわりと問題だらけで、「こんなやつと結婚したくねぇ〜でもお互い様だしお似合いなのでは〜」なんて外部から煽る視点で観つつ、しかしじゃあ俺は何様なんだと言うとこれはもうレオ様やケイト様以下のクズでしかなく、こんなクズな私が結婚なんかしたらバッドエンドしか見えねえ!と絶望という名の安心に浸ってしまったりもしつつ......。
ただラストはちょっとエンタメ的すぎるというか、狙ったような後味の悪さで逆に笑っちゃいましたね。個人的にはああいう終わり方はちょっと甘い気がしちゃいました。

まぁしかし、どこか現実から遊離したようなくっきり綺麗な映像に載せて語られるオーバーリアクションな家庭崩壊劇は、なんだか白昼夢のようでもあり、なんとも言えぬ余韻が残ります。
......負けてらんねえ。こんな映画なんかに負けて結婚を諦めるなんて悲しすぎる......結婚してえ......でもこんなん見ちゃったらしたくねえ......。結婚ってなにさ......。




ふたりの5つの分かれ路


引き続き夫婦崩壊映画シリーズ。
意外とちょいちょい観てるフランソワ・オゾン監督。


ジルとマリオンの2人が離婚するところからはじまり、離婚→倦怠期→出産→結婚→出会いと、破局に至るまでの5つの風景を遡りながら切り取っていく映画です。


内容のつらさのわりに、かなり淡々としているせいで切なさとかよりも無常や諦念を強く感じる作品でした。

逆再生の構成なんですが、なぜだか映画が進むにつれて、つまりは2人の関係が遡るにつれて、より不穏さが際立っていくように見えるのが面白かったですね。
もちろん、この後破局することが分かっているから不穏に感じるのもあると思いますが、それ抜きにしてもどんどんサスペンスっぽくなっていきますからね......。
まぁ節目節目でこんな不穏なことになってるような夫婦だから終わって当然みたいにも思えますけどね。出産のシークエンスは酷かった。酷いだけに自分もああなりそうで怖かったっすね......。

結局ね、物の見方が違うと、最初はぴったり重なっていたつもりでもだんだんズレていって気が付いたらもう戻れないところまでズレきってしまっていたりするんですね。怖いなぁ怖いなぁ。
そんな2人のズレが、冒頭の離婚のシークエンスの勝ち負けの話で端的に言い表されているのもまたうまい。

そして、美しい始まりでありつつ終わりの予感を既に孕んだようなラストシーンが絵として印象に残りました。繰り返される諸行無常、蘇る性的衝動。




ことの終わり

ことの終わり (字幕版)

ことの終わり (字幕版)

トラウマ恋愛映画繋がりで......。


主人公は作家のモーリスさん。
彼はかつて友人ヘンリー氏の奥さんであるサラさんと不倫の関係にありました。
2年前にその関係は終わったのですが、久しぶりに再会したヘンリーから「サラが浮気してるようだ」と聞かされて嫉妬が再燃。友情を装いながら相手の男を探しはじめます。


有名な小説が原作らしいですが、海外の小説をほとんど読まないので当然の如く未読。
そのため比較はできませんが映画単体で観てめちゃくちゃ面白かったです。


「愛とは何か?」というテーマを描いた重厚なラブストーリーであり人間ドラマなのですが構成はまるっきりミステリでもあり、見習いミステリファンとしても、恋愛映画ひょろーん家としても、2度美味しく楽しめました!


なんせ、謎がどんどん提示されるんです。
「サラの相手は誰なのか?」「モーリスとサラはなぜ終わったのか?」とかね。
で、中盤のとあるめちゃくちゃ印象的で謎めいたシーンを境に、だんだんと謎が解けていくんですね。ただ、謎の答えが分かって何が起こっていたのかが明らかになった時こそ、「愛とは何か」という解けない謎が立ち現れるのが美しいです。

それまで性格的にもわりと主人公の心情に寄った気持ちで観ていたので、最後に眼前に現れるあまりにも大きな愛の形に「ふぇっ!?」ってなりました。それは私にはたどり着けない境地で、だからこそ美しく、しかしやはり嫉妬も拭きれず、そんな私を嘲笑うかのようなあのラストシーンの余韻に震えました。

愛とは............




ワンダーランド駅で


運命の出会いを必要としつつもなかなかいい人に巡り合えないエリンとアラン。2人が"出会うまで"を描いた、ビフォア・ラブストーリー。


うん、面白かったです。

恋愛映画ってどうしても最初に出会った2人がだんだん惹かれあって障害もありつつくっついて終わるみたいなパターンが多いですけど、恋愛ってそこからじゃないですか。
......ってんで、じゃあ恋してた2人が別れるまで......なんてのも私もここんとこよく見てますけど、しかし、この、「これからラブストーリーを育んでいくであろう2人が出会うまで」なんて作品はかなり珍しい気がします。少なくとも私の乏しい知識では他にぱっと思い浮かびません。

王道のくっつく系だと「大変なのはその後やで〜」なんてうがった見方をしてしまいますが、むしろくっつきもしないところまでの本作なんかは素直に2人を応援したくなっちゃったりしますね。


で、なんか本作は雰囲気がいいんですよね。
いい意味で低予算っぽいというか自主制作っぽいというか。映像の質感も映画っぽくないし、BGMもいい感じのボサノバなんだけどなんかそれが午後2時くらいにテレビでやってるドラマっぽい空気を出してるんだけど、そんな午後のドラマ感が心地いいんですよ!!!なんか夏休みっぽくて(伝われ)。

ストーリーは、2人の話が並行して語られるんですが、メインはエリンちゃんがママの陰謀で新聞の恋人募集欄に載せられちゃって色んな男に言い寄られるというところ。
彼女を軽く見てる男たちを機知で受け流すところの上品なんだけど俗っぽいユーモアに身を委ねながら、抜身で語られる恋愛観に、女子会で恋バナしてるような楽しさがあります。だから、逆に恋バナ嫌いな人にはきついかも。
そうなんですよね、ラブストーリーになる前のお話なので、全体に恋愛に対する呟きみたいな感じなんすよね。個人的にはそういうの好きなので楽しめました!

あと、主役の2人がいい感じ!
エリンは映画女優感はない、ギリその辺にいそうな範囲内での美人で、普通に好きになっちゃいそうでした。
アランの賢いし人が良いけどちょっと頑固っぽくて、イケメンとは言わないけど同性から見ても雰囲気でかっこいいところも素敵でした。
やっぱ恋愛映画って主役の2人の魅力にかかってますからね。基本いいやつだけど別に完璧ではない2人に適度に感情移入しながら観れました。

ちょっと最後は甘いというか、結果オーライみたいなところに無理やり持ってかれた感じはありますが、ともあれ休日のお昼にたらっと観れて爽やかな後味の素敵なオシャレ映画でした。映画自体がボサノバみたいな良い雰囲気なのです。




マローボーン家の掟


森の中の屋敷に暮らすマローボーン家の4兄弟。彼らの間にはいくつかの不思議な"掟"があり、それを破ると......。


家系が好きなので、家系の新作ということで観てみましたが、なるほど、古き良き家系の香りが楽しめました。

タイトルの「掟」自体は実はそこまで重要じゃないので(原題は「マローボーン」だけ)、グレムリンとかヴィジットみたいなのだと思うとやや肩透かし。
しかし、何かしらの過去を持った兄弟が何かしらワケありっぽい屋敷に住んでいるという、「何かがあった」状態から始まり、その過去の何かが徐々に徐々に明かされつつ、或るガールと出会い未来へと向かっていくストーリーテリングの魅力が凄い。

ホラーとしては、ところどころちょっとびっくりするようなとこもありつつ、基本的にはこの「何があったのか?」がぼかされていることによる不安で怖がらせに来てるのが好印象。屋根裏、煙突、モールスといったベタな小道具も良いですね。美しい。

オチはだいたいわかっちゃうものの、その辺の物語の美しさや映像の美しさがあるから、わかっていながら泣ける、怪盗の予告状みたいな感じなんですよねぇ。泣くぞ、いや泣くもんかと身構えつつも、結局はあっさりと涙を奪われてしまいました。

と、そこまでわりとありがちなこういうホラーを端正にやってる感じでしたが、最後の最後はちょっと今風で驚きました。いや、そんなこともないのかな......?でも、こういうの最近流行ってませんか......。
(ネタバレ→)いわゆるメリバってやつっすよね。


というわけで、古き良き家系ホラーにトレンドをトッピングした温故知新な良作でした。
こういうの好きなら見るべし!




映画 すみっコぐらし


なんとなーく、揚げ物とか恐竜みたいなのが出てくるお話くらいなイメージしかなかったすみっコぐらし。
しかし、ツイッテーやヒルマークスでの評判があまりにも良かったのでさすがに気になって見に行きましたらこれがまぁ子供向けアニメにしてはなかなか......うん、なかなか............だめだ、目から透明無臭の汁が出る病に罹りました。


そもそも、すみっコぐらしの設定自体がわりとほろ苦いんですね。
環境に適応できずに逃げ出してきたしろくま、記憶喪失のぺんぎん、生き延びるためにアイデンティティを殺したとかげ、叶わぬ夢を捨てられないざっそう、希死念慮に囚われるとんかつとえびふりゃー、恥ずかしがり屋のねこ......などなど。
けっこう、キャラの設定がシリアスでびっくり。ねこは恥ずかしがり屋なだけだった。あとタピオカ可愛い。

で、この劇場版ですが、「こいつら喋るのかなぁ」と思ってたら、喋るのは天の声さんたちだけで、彼らは表情と簡単な字幕だけで演技してました。声がつくとイメージ崩れるのでこれはよかった。
で、その分表情や仕草が色んなことを語ってくれるので台詞がなくても感情移入させられてしまうのが凄かったです。

お話は、カフェエの地下室にあった呪われた絵本の世界に吸い込まれてしまったすみっコたちが、絵本の中に住む迷子の「ひよこ」のおうちを探してあげると言う他愛のないもの。
絵本には桃太郎や赤頭巾などの童話や昔話が描かれていて、それらのお話のページを登場人物になりきって縦横無尽に冒険していくというコスプレ大会みたいな感じ。
正直この辺はあまりにもゆるくて癒されすぎるので仕事終わりのレイトショーで観に行った身としては睡魔という怪物と戦うハメにもなりましたが......。

しかし、後半では「絵本の中」という舞台を使った色んなギミックが発動しつつ自己の存在意義を問う重くてリアルなテーマが浮かび上がってきてなんども目汁病の発作に襲われました。
これが本当に子供向け映画なのかよ!?なぁ!?と作った人の胸ぐら掴んでロッカーに叩きつけたい衝動に襲われるくらいの結末......かと思えば、それが「すみっコぐらし」らしい苦暖かい余韻に収束されていくところは本当にぞわぞわしましたね。
世の中で弱者とされる彼らの、だからこそ持ち得た優しさは、美しい。

というわけで、やや期待して観に行きましたが、大きいお友達がこぞって持ち上げるのも納得の泣ける映画でした。