偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜(2019.6)

はい、先月のふぇいばりっとは以下の5本!
あんま映画見れなかったけど観たのが結構面白いの多かったのでラッキーでした。ではでは。




ブルー・ベルベット
パターソン
ライフ
11:46
カランコエの花




ブルー・ベルベット


野原で人間の耳を発見したジェフリー。それを届け出たことがきっかけで刑事の娘サンディと親しくなり、事件に関係していると思われるドロシーという女のアパートに忍び込む。そこでフランクという男とドロシーの倒錯的な行為を目撃したことで、ジェフリーは徐々に事件の渦中に巻き込まれていき......。


アンダー・ザ・シルバーレイク』のパンフとか見たら『マルホランド・ドライブ』の影響がデカイとか書いてあったけど、むしろこれやないですか!
なんかへにょっとしたちょいキモいイケメンの主人公が色々覗きまくったり夜道を散歩したりするっていう......。
また、本作は一見シンプルなサスペンスの筋立てなんですけど恐らくそのテーマは表と裏というか、表面と水面下、みたいな、それこそシルバーレイクの下には......みたいなニュアンスのお話なんですよね。
絶対これのが下敷きにしてるよ〜。


てわけで、そう、筋立て自体はかなり分かりやすく、好奇心から誘拐事件に巻き込まれた主人公が解決のために動かざるを得なくなる......みたいな感じで、美女の登場やヤバい敵キャラが出てくるのも描かれ方こそ個性的ですが王道な展開。
ラストもぱっと見「イイハナシダナー」くらいの爽やかさで逆にびっくり。

しかし、そんな爽やかっぽいラストシーンで描かれるアレがアレをアレしてるというのが本作のテーマを象徴しているようで......。
牧歌的な日常の中で耳から悪夢に入っていき、耳から悪夢よりの生還を果たしたようでいて、もう世界はそれ以前には戻れない......みたいな、シンプルなんだけどやっぱり捻くれた演出がエグいっすね。

で、その悪夢の中身というのは、ほんとに倒錯的なのに観ていてついつい引き込まれてしまう異様に美しい映像な訳ですから。それに好奇心を抱いて悪夢の世界に引きずり込まれてしまったらそれが最後......それこそ『アンダー・ザ・シルバーレイク』の主人公のようになってしまいそうで恐ろしい作品でしたよ......。




パターソン


パターソン市に住むバス運転手のパターソン。愛する妻と暮らし、日々心に浮かぶ詩を書き留める彼の1週間を淡々と描いた作品です。


月曜日、妻と眠っている主人公がベッドの上で目覚めるところから始まり、火曜日、水曜日と似たような毎日を繰り返す構成。
しかし、日々は同じことの繰り返しのようでいてほんの少しずつ違います。そして、そのほんの少しによって毎日は特別な一日一日の積み重ねになっていく......というようなメッセージが込められてるんですから、優しいですよね。

日々に起こることには特に山もなくオチもなく、行きつけのバーでおしゃべりしたり、詩人の少女に出会ったり、妻がギターを始めたり......そんな些細なことばかり。
でも、映像や会話がとにかくステキだから全然飽きずに観ちゃうんですよね。たら〜っとだけど。コーシーを飲んだりごろごろしながらね。

主人公のパターソンは詩を書いていて、仕事の場面などでその詩がモノローグみたいな形で出てくるんですけど、彼の詩もまたこの映画のように日常の尊さを感じさせるもの。逆に言えば、この映画自体が一冊の詩集のようでもあり、観終わった後にお気に入りの場面を頭の中で再生しながらちょっと元気が出るような、そういう効能があります。

私は奥さんが壁に模様を描いてるシーンが印象的でした。あんなオシャレ生活をしたいよね。あと、ブルちゃんが可愛かったです。ブルちゃんの可愛さをはじめて知りました。
あと、カーラ・ヘイワードがモブで出てるんですけどめっちゃ可愛かったです。どタイプなのでビッグになってほしい。




ライフ(2017)

ライフ (字幕版)

ライフ (字幕版)

SF映画を見ていて、誰もがこう思ったことがあるはずです。
「なんで宇宙人って地球人と同じフォルムなん?」

あるいはサスペンスやパニック映画を見ていて「あぁ、もう、こいつ自己中すぎ!」「なんでそこでそうするの!頭悪すぎ!」と思ったことも幾度となくあるはずです。

6人の宇宙飛行士が火星で発見した生命体に襲われるという筋立ての本作は、そんな映画ファンのつっこみどころあるあるを完封してくるリアルなエイリアン・パニック映画なんです。

まず、エイリアンの姿が人型じゃないのが面白いです。
まぁかの『遊星〜〜』も人型ではないけど、あれは人に入りますからね。本作のカルビンは、人型じゃないけどそいつ自体と戦うっていう即物的な恐怖ではあるんですよね。それは例えば水族館でタカアシガニを見て「こいつに襲われたら絶対殺されて内臓食われるな」って思うみたいな、そういう怖さがあります。
なんせ、カルビンはすべての細胞が目であり脳であり筋肉、ですからね。脳みそが筋肉でできているとはまさにこのことでしょう(違)。
グロ描写も刺されたり食われたりとかじゃなくてもっとエグいっすね。とはいえグロいのはわりと前半だけで、後半はどんどんサスペンス性を出す方にシフトしていきます。

で、ここでキャラ造形のことなんですが、この6人の乗組員について、うだうだと人物描写がされることはないけどさらっと出てくるセリフやエピソードでなんとなくどんな人か分かってしまうのが上手いです。
全員が真っ当な知性と自己犠牲の精神を持ったいい人たちなので、1人のわがままで和が乱れたりする苛立ちもなくかなり感情移入して見ることができるようになってます。
だから、人が死ぬ時もいちいち結構ショッキングな感じで「あいつやっと死んだわ〜↑」みたいなテンションにはならない。
好き好きですけど私はこういうシリアスなB級映画っていう違和感が素敵だと思いましたね。

そして、ラストも想像通りではあったもののやはりインパクトは強く、カルビンちゃんの触手的なフォルムのせいでなんとなーく某作を思い出したりもしてしまいます。

脳筋バトルアクションは好きじゃないけどB級パニックは好きな私みたいなのにはちょうどいい塩梅の野心作でした。




11:46

11:14 [DVD]

11:14 [DVD]


これはやられましたね。

地下鉄の中で突如新興宗教団体の信者たちが乗客を殺し始め、主人公らまともな人々が地下トンネルの中を逃げ回るっちゅうパニックサイコスリラー。


(フィルマークスの点数ってのはあんまり信用しすぎても痛い目見ることがあるんですけど、これもその典型的な一例でした)

ミステリ映画の本で、確か三津田信三だったかが紹介していたので気にはなってたんですが、いやはや面白かったです。


地下鉄(のトンネル)って舞台がまず良いですよね。見知らぬ他人が居合わせる場所としても説得力があるし、暗くて狭い閉塞感もあって、何より外の様子がわからないから「ここで助かっても外の世界はもう終わってるのでは?」という恐怖も追加されますからね。

で、こういう知らない同士でパーティーを組む感じのやつ好きなんですよ。シャマランの「ハプニング」とか。そういう居合わせた人たちがそれぞれ意見を戦わせたり疑心暗鬼になったり協力したりするっていうだけでなんか物語のロマンを感じますよね!
本作も、主人公を含む狂信者じゃない人たちのパーティーでそれぞれキャラが立ってて入り込んじゃいました。

それ以上に、敵側のキモい青年がめちゃくちゃ良い味出してます。こいつわりとクズではあるんですけど、宗教上の理由で童貞なんだけど今から世界が終わるって時に女とヤってみたい!という、信者側の規範からも外れた立ち位置が美味しいし何より男としてその気持ちは分かってしまうから!最初はなんだこいつと思ってたけどだんだん嫌な奴ながら愛着が湧いちゃう、良い悪役でしたね。


で、スリラーとしては、ゾンビじゃないけどゾンビパニックものなんですよね。言葉は通じるとはいえ、話が通じない集団の殺人者たちというのはまさにゾンビみたいなもん。もちろん人間だから走る!28日後みたいな!
そして、主人公たちの側の、狂信者たちを殺すことへの葛藤はゾンビ以上にあるわけで、それがあるだけで不利になるのがまたスリラーとしては美味しいですよね。

で、最後の方まではそんな感じでアクション気味にくるわけですが、ラストまで見ると大抵の人はぽかーんとしちゃうんじゃないでしょうか。
なんせ、これなかなか分かりづらい仕掛けになってて。
詳しくは書けないけど、私も最初見たときは分からなくて単に後味悪い系だと思って見ちゃったんですよ。なんせ、単純な後味悪い映画だと思ってもそれはそれでとても面白いオチなんですからね。

ただ、他の方のレビューのヒントを見て、え、そういうこと?と思って最初から見返して、その周到さに舌を巻き巻きしちゃいましたよ。これは凄え!凄えけど分かりづらっ!

私はたまたま他の方のレビュー見たから良かったものの、気付かずに見てたらたしかに評価も半減でしょう。そりゃ低評価なのも納得ではあります。
ただ、伏線の張り方とかが分かりづらいけど、話の内容自体は難解とかではなくスッキリ分かるものなので、「なんだこの終わり」と思った方にはもう一度最初の方だけでも見返して違和感の正体に辿り着いて頂きたいですね。

というわけで、ミステリ映画のようにも見れるアクションパニックスリラーという私好みかつ贅沢で捻りの効いた傑作でしたよ。好き!


ちなみにめちゃくちゃ関係ないけど似たタイトルの「11:14」というドタバタコメディミステリもかなり面白かったのでついでにオススメしときます。




カランコエの花

カランコエの花

カランコエの花


とある高校のクラスで突然行われたLGBTの授業。
「このクラスにそういう奴がいるんじゃね?」
クラスの中心的な男子生徒は、遊び半分で犯人探しのようにその生徒を探そうとし......。



39分間という短さで真正面から差別問題に切り込んだ作品。
おそらくこの短さは実際に高校や大学の授業で流せるサイズという意図なのではないでしょうか。短いからこそ鋭く、強く、問いかけを投げかけてくる傑作です。

凄いのは、このテーマを描ききるために様々な演出上、脚本上の技法が非常に効果的に使われていて、ある種物語作りのお手本みたいな作品でもあること。

例えば、作中であえて「この人がLGBTなんじゃないの?」と思わせるレッドへリングをいくつも忍ばせることで、無意識に観客である我々もまた「誰がLGBTなのか?」というフーダニットに参加させられてしまう。それによって、そういう人を特別な存在として意識してしまっている自分を浮き彫りにされるわけです。

また、セリフが台本にあるものとアドリブのものとがあるようですが、アドリブ部分でいい意味で素人っぽいリアルさが出ている一方、ところどころで的確に心を抉るセリフが入ってくる、しかしこの2つが分離して感じられないのは役者さんたちの対応力の高さなんでしょう。

あるいは、分かりやすい伏線を張ることで短い中でもキャラクターの動きに説得力が出てるっていうシーンも二箇所ほどあったり、真意のわからないシーンがあって観客に想像させたりっていうテク。

そして、あの構成も。あれは泣くでしょ。あの、青春映画としてのエモさがあることで登場人物たちが一気に身近に感じられるのも凄いっすよねぇ......。


そんな、39分の短さに技巧を凝らしまくり、ある1人の高校生を描くことでマイノリティへの差別というテーマを問う(そう、答えを押し付けるわけではなく、こちらに問いかけを突きつけるんですね)、そして単純に青春物語としても抜群に面白いという傑作でした。
本編より長いコメンタリー・インタビューも見応えあり。