偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜(2019.4)

令和元年あけましておめでとうございます⛩🎍🌅
とは言ったものの、特にそんなに感慨もなく相変わらずごろごろして過ごしています。きっと世界が終わるとしてもそんな感じなんでしょう。
それでは4月のふぇいばりっとです。





暗殺のオペラ
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ
地球に落ちてきた男
地上より永遠に



暗殺のオペラ


北イタリアの田舎町を訪れた主人公。
ファシズムの活動家だった彼の父は、30年前にこの町で暗殺された。父の愛人だった女は主人公にこの暗殺事件の真相を突き止めてくれと依頼する。
主人公は父の同志だった肉屋、映画館主、教師の3人に接触し、当時のことを探っていく......。


ベルナルド・ベルトルッチ。名前の語感が良い監督です。
本作はどうもテレビ映画として制作されたみたいですが、テレビで観るにはもったいないような映像美が楽しめました(つっても私もテレビで観たわけですが......)。

暖色が目立つ絵画が並べられるオープニング、からのイタリアの田舎町の寂れてるけど南国っぽい異国情緒あふれる風景がもう最高で、この時点で映像には早くも心奪われてしまうわけでした。なんというか、連休の初日のお昼にまどろみながら観たい感じの風景。

で、カメラワークとかの詳しいことは分かりませんが、すぅ〜っと流れるように現在と過去を行き来する撮り方も面白いです。
主人公と父親は服装でどっちがどっちか分かるものの、他の人たちは現在も過去も同じ姿。だからなんというか、主人公が町の人たちの話を聞きながら父親の過去を追体験しているような、そしてそれを観ている私がまた追体験するような、不思議な感覚になりましたね。

そして、ストーリーも、映像よりは遅効性ですがじわじわと引きつけてくれます。
なんせ現在と過去の行き来こそ最初はわかりづらいものの、主要登場人物は父と愛人と同志の3人くらいなものだし、提示される謎は「父の暗殺の真相は?」という、ミステリーとしてはかなりシンプルな作りですから、分かりやすくて良いですね。
その分、テーマの重さや町の人たちの態度の不穏さで深みが出てくるので「シンプルすぎてつまらない」ということもなく、良い塩梅です。

明かされる真相もまたすごい。
シンプルな話だけになんとなく読めてはしまうものの、それでも解決シーンのシルエットを使った演出などイカしてますし、意外性がありつつ物語のテーマを深めてもいてミステリとしても上質な真相だと思いますです。
そして、驚愕の真実を知ってしまった主人公の最後の選択と、不穏な余韻の残るラストシーンも印象的。音のないエンドロールがまたその印象を強めていきます。大きいテーマのようでいて、個人の内面を抉り出す非常にパーソナルな話でもあるような、不思議な魅力のあるストーリーでした。

あと、どーでもいいけど蚊取り線香って外国でも使われてるんですね。びっくり。




ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ


BSで観ました。
録画時間4時間となっていたので長いバージョンかと思ったらCMがめちゃくちゃたくさん入ってたのでたぶん「205分」のバージョンだと思いますが、それでも長かった!
1920年代、禁酒法の時代に出会ったヌードルスとマックスという2人の少年が、仲間たちとともにギャングになっていく様と、彼らのその後を少年篇/青年篇/老年篇の3つの時間軸で描いた大作です。


最初の方は時系列は入り乱れ、登場人物はよく分からないままたくさん出てきてはいきなり殺されたりと、結構わかりづらいことになっていますが、そこから少年期の話に入ると一旦時系列のごちゃごちゃはなくなって青春ものを観る楽しさと切なさに満たされます。
この少年期のさまざまなエピソードのノスタルジーがえぐいことえぐいこと。何がえぐいってヒロインの少女時代を演じるジェニファー・コネリーの美しさですよ。さすがは世界一の美少女。この頃はもう全盛期で、まるっきり人間とは思えない透明感をぶちかましてます。なんかもう美しすぎていやらしい気持ちとか抜きでただただずっと観ていたい感じですね。
一方、もうちょい現実的にヤレるかも感を出してくる女の子もエロくって、トイレのシーンとかは中学生の頃にはじめて同級生の女の子のおっぱいを制服の胸元からちらっと見てしまった時のような気持ちになりましたね。私は何を言っているのでしょうか。
そんな性への目覚めと純な恋との狭間にある少年を描いた性春モノとしての部分がまずは趣味嗜好にぴたっとハマって最高でした。

一方、ヌードルスたちとマックスとの出会いのシーンから始まる少年ギャング団の絆方面からの青春感もまた清々しく。機知を活かして大人たちと渡り合ったり、かと思えば子供っぽくはちゃめちゃなことしてはしゃいだりと言う彼らの日々がひたすら眩しかったです。その行き着く先の少年期のクライマックスはこれまでの思い出が走馬灯のように脳裏を駆け巡るようなエモさがあって好きです......。

ただ、正直なところ少年期のエピソードがよすぎて、そこから青年期になるとちょっと興味が薄れてしまうところはありましたね。話がつまらなくなるというよりは、個人的な好みの問題ですけど。
それでも、セックスにまつわるシーンはどれも印象的。ちんちん当てゲームのところなんかは普通に笑っちゃったけど、車の中でのレイプのシーンは切なかった。どんな甘い思い出も、これだけでもう全て壊れてしまう、その取り返しの付かなさに泣きました。それでもどうしても彼の気持ちは分かっちゃうわけで、その虚しさに泣きましたよ。

そして、老年期の話に関してはもうかなり観念的なところになってくるので正直うまく語れないのですが、みんなが歳をとった中で彼女だけが若い頃のままでいるっていう、そのことだけでもうエモエモですやんね。そのことの意味はラストをどう解釈するかでも微妙に変わってきそうですけどね。
私はあのラストは『きみに読む物語』にも通じるハッピーエンドだと信じています。そう考えるとあれだけ虚しくて切ないのに突き抜けたことで後味が良くなっているような不思議な感覚が堪らんですよね。いやはや、アメリカ史の一側面の中に1人の男の人生を詰め込んだ素晴らしい超大作でしたよ。好き。




地球に落ちてきた男


火星からやってきたデヴィッド・ボウイがスペースオディティとかジギースターダストとかゆって歌手デビューするまでを描いた伝記映画です。嘘です。

宇宙人のボウイことニュートン氏が地球で大富豪になってメリー・ルーというGirlと恋をしながら妻子の待つ星へ帰ろうとするお話です。


我々世代からすれば毛皮のマリーズの「Mary Lou」という曲でおなじみのメリー・ルー。思わず「メリー・ルー 夢のような甘い口づけを大人は知らない〜」と頭の中で歌いながら観てしまいました。
ボウイが宇宙人だったりとSFな設定ではありますが、内容は完全にニュートン氏とメリールーのラブストーリーでした。

まずはとにかく映像が良いですよね。
なんかこう、めちゃくちゃオシャレで綺麗なんだけどノスタルジックな感じ。自然の風景とSFぽい無機質な映像とボウイの母星の荒廃感との違和感。なんといってもニュートン氏を演じるボウイの美しさよ......。そしてセックスシーンがモロでしたね。修正に慣れてるのでモザイクなかったらないでちょっと気まずい感じしちゃいますね。『赤い影』の監督だけあって長いしハードだし。

話の内容は分かるような分からないような、いやどちらかといえばかなり意味不明ではありましたが、そんな中でも孤独を抱えたニュートン氏がメリー・ルーに惹かれていく姿だったり、そうやって惹かれあったのに時は不可逆であることを突きつけてくる終盤だったり、もう帰れない「ここではないどこか」に想いを馳せることの詩的な残酷さだったりは、エグさとしては『美しき冒険旅行』にも通じるところがあったり......。老いることも出来ないままに時の流れを眺めているニュートン氏の最後の姿が印象的で、ボウイが晩年に本作を舞台化したというのもまた意味深です。
私ももしかしたら地球に落ちてきた男なのかもしれない、と、そんなことを思わされる映画でした★

(あと、お姫様抱っこされるボウイが可愛かった)




地上より永遠に


1941年のハワイの米軍基地。
転任してきた主人公のプルーウィットは、拳闘部に入ることを断ったために部隊の中でイジメに遭う。しかし、彼は持ち前の強情さでそれに耐えながら友人のマジオや恋人のロリーンらと日々を過ごしていた。
一方、プルーウィットの理解者である軍曹のウォーデンは部隊長の妻カレンと不倫をしていたが......。

真珠湾攻撃の直前のハワイの米軍基地を舞台にした群像劇です。
調べてみたら原作は文庫で4巻の大長編らしく、それを2時間の映画にに押し込めてるわけですが、盛りだくさんでありながら一つの物語として分かりやすくまとまっています。

どうしても真珠湾のイメージがある本作ですが、描かれているのは普遍的な集団の醜さや信念や恋愛についてなのです。

主人公のプルーウィットがいじめられながらも頑固に意志を貫いていくというところなど、理不尽とそれに抵抗する人々の姿が物語の中心に置かれます。
男臭い感じのプルーウィットが意志を貫く姿ももちろんカッコいいんですが、彼の友達のちょっと三枚目なマジオくんがクソ野郎と戦うところは応援したくなっちゃいますね。
これは別に戦中だからとか軍隊だからという話ではなく、普遍的に世の中の理不尽とそれに屈しないということについての話なので、今見ても色褪せない名作と呼んで良いでしょう。まぁ褪せようにも元々色無いですけど。

そして一方、恋愛映画としては主人公の若い情熱と軍曹のオトナな不倫とで、一作で二度美味しくなってます。
主人公の側の話だと、有給もらって会いにいったら彼女が冷たかったシーンがすごく分かりみが強かったです。めったに取れない休みを前々から楽しみにしてたのに......というのは、怒りとも悲しみともちょっと違って、もはや青天の霹靂みたいな絶望的な気分ですよね。ここ別に特に重要なシーンでもないんですけど、こういうリアルな感情をさらっと描けちゃうのが上手いなあ、と。

また、不倫カップルの方にしても、これを見て「不倫はいけない!」と言う人はほぼいないだろうという説得力のある不倫(なんじゃそりゃ)でありまして......。結局不倫にしたって恋愛なんてケースバイケースの極み乙女なわけですから、当人の事情も知らずに叩くのはよくないなと藍色な気持ちになりましたね。
で、彼らの方ではジャケ写にもなってる名場面・"浜辺キス"があるわけですが、これがとても美しかったです。映画の名場面って往々にしてこういう全体の流れの中では別に重要でもないシーンだったりしますよね。
ただ、それでもやっぱり私は本作の名シーンにはあのラッパの方を推したいと思いますですよ。あれは......。

というわけで、集団における人間の醜さを描いた映画でもあり、そんな中で頑張る主人公を描いたお仕事映画でもあり、切ない恋愛を描いたラブストーリーでもある、面白さ盛りだくさんな傑作でした。