偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

今月のふぇいばりっと映画〜(2018.11)

はい、なんとこのコーナーもなんとか3ヶ月保ちましたね。保ったからといって別に誰も見てないとは思うけど、せっかくなんでこの調子で続けていけたらと思います。



エンドレス・ポエトリー
君の名前で僕を呼んで
マルホランド・ドライブ
ストレイト・ストーリー
早春 (DEEP END)




エンドレス・ポエトリー


いやぁ、優しくて強い、傑作です。

前作『リアリティのダンス』のラストシーンからそのまま繋がる第2幕。
ホドロフスキーの少年期を描いた前作から続き、本作は青年期の物語。

故郷の町からサンディエゴへ移ったホドロフスキー家。
アレハンドロはある日従兄弟に連れられて芸術家たちが共同生活する家を訪れる。型にとらわれない彼らを見て、アレハンドロは詩人として覚醒する......。



幼少期を描いた前作はどうしても両親をはじめとする周囲の人たちに対して受動的だったために壮絶な感じがしましたが、本作では自分で好き勝手に行動できるようになった分、彼の"普通さ"が際立ったように思います。
とはいえあのホドロフスキーですからこれでもかと奇行に走りはするのですが、それは全て自らの信じる"詩"のため。結局彼が人と違うのは自分を曲げないこと、考えをひたすらに突き詰めていくこと、それだけ。それ以外はもう、何でも話し合える友達に出会い、恋をされたりしたりして傷つけたり傷つけられたりしながらも人との関わり合いの中で生きていく......そんな、驚くほど真っ当な青春ムービーになっているのです。

もちろん、そんな真っ当な青春ムービーの筋立てを、時に舞台劇のような、時に前衛アートのような独特の実験的映像でやってるのでホドロフスキーらしい珍妙映画にもなっていて、ヘンテコを楽しみにしてる人にも大満足。

さらに、終盤に至ると本作はただの青春ムービーではない、人生賛歌へと変貌を遂げるのです。
まずラストの父親との決別のシーンでのアレハンドロの言葉、あれは過去の苦しみの肯定であり、全てひっくるめて過去があったから今がある、さらに敷衍すれば今があるから未来があるとも言えるわけです。
そして、その未来すらも、青年期のホドロフスキー(演じるのは息子のアダン)に語りかける現在のホドロフスキー(本人役)の、「老いることは荷物を降ろして解放に向かうことだ」的な(見たときメモらなかったのでめちゃ意訳ですが)言葉で肯定してしまっているのです。
つまり、この映画は過去・現在・未来を引っくるめて人生そのもの丸ごと全部の肯定なのであります!!いやぁ、びっくりですよ。こんなに優しい映画は観たことがありません。最後の方はずっと泣いてましたよ。

そして骨と肉のカーニバル。鑑賞前にジャケ写でこの絵面を見て「なんじゃぁこりゃあ」と思っちまいましたが、見終わってみるとそれが生きることなんだと納得しました。
「意味などない。ただ生きるのだ」「人生は美しい」「人生はゲームだ。最悪のことも笑ってしまおう」
などなど、言い古された言葉でもありますが、これだけの説得力のある物語で言われることですうっと染み入ってきました。

この自叙伝シリーズは5部作構想らしいですが、ここまで完成しきった作品を作ってしまってから次はどうするんだろうと思っちまいます。てか88歳なのにあと3本も撮るつもりなのか強えな。
というわけで、今後もホドロフスキー先生の動向に期待ですにゃん。




君の名前で僕を呼んで


1983年の夏。17歳のエリオは家族で別荘に避暑へ行き、父の教え子である大学院生のオリヴァーと知り合う。お互いに気になる女の子がいた2人だったが、次第に惹かれあっていく。


君の前前前世から僕は〜♪
というわけで、名前が入れ替わる系同性愛映画です(?)。

私はBLってのはあまり好きじゃなく、社会派も苦手なのです。
しかし、本作はいわゆるああいう茶化した感じのBLではなく、LGBTの権利云々のメッセージもなく、ただの非常にオーソドックスな恋愛映画だったので共感しやすくめっちゃきゅんきゅんしました。

主役の2人がいいですよね。なよい美少年系のエリオと、吹き替えの声がおっさんすぎて40代かと思ってたら実は24歳の文武両道オリヴァー(いや、津田健次郎氏とは握手会で握手した仲なのでディスってないよ)。
彼らのこう、めちゃくちゃもどかしいやりとりに思わず両方に「あいつお前のこと好きやぞ!」と教えてあげたくなりますがそれは無粋というもので、この初々しい胸きゅんに悶えながら見るのが正解でしょう。
特に桃ニーのシーンは震えました。かぶれるよ気をつけないと。

また、男同士の恋愛モノではあるものの、それに気付くまでに女の子とセックスするシーンもあってそこが非常にえろっちかったです。あの子めちゃ綺麗だったけど可哀想よね......。エリオ許せん😡

音楽も良かったです。80sが舞台なので今はやりの80sポップミュージックの私が知らないようなのと、主人公がピアノをやるのでクラシックや坂本龍一の美しい旋律と、どっちも楽しめるお買い得なサントラでした。
個人的にはthe psychedelic fursがめっちゃ気に入ってしまってベスト買っちゃいました。これから聴きます💖

あと、エリオの両親が終盤でどんどんいい味を出してくるんですねぇ。
パパのセリフが最っ高ですよ。

「人は早く立ち直ろうとして自分の心を削り取り30歳までに枯渇させてしまう」

「今お前は悲しく辛いだろう だか押し殺すな せっかくの喜びも死んでしまう」

ふぎゃー。
そして、終わり方も粋ってもんじゃないですかこれは。ここまで余韻を持たせる映画もなかなか珍しいよってくらい余韻を引きずり回した上打首獄門ですよ。

ちなみにこの映画、どうやら「ビフォア」シリーズのような構成での続編の話があるらしく、まさか9年も待たされないでしょうがそちらも楽しみです。




マルホランド・ドライブ

マルホランド・ドライブ [DVD]

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昨日「アンダー・ザ・シルバー・レイク」を見てきました。
L.Aとハリウッドを舞台にした冒険ファンタジーでしたが、その映画のパンフレットにこの「マルホランド・ドライブ」の系譜を継いだみたいなことが書かれていたので気になって借りてきました。

うーむむむ。難解、だけど、要するにこういう話ってのは一言で言えるほど分かりやすい。しかし細かい伏線とかにどこまで意味があるのかとか考えだすとさっぱり分からない。でも分かる部分だけでも十分泣ける。なんなんじゃこりゃ。

前半は女優になる夢を叶えるためにハリウッドにやってきたベティ(ナオミちゃん)が記憶喪失の女・通称"リタ"(リタ・ヘイワースから!)と出会って彼女の記憶を一緒に取り戻そうと奮闘するガール・ミーツ・ガールを一応メインストーリーにしながらも映画監督や殺し屋などたくさんの挿話を見切り発車のごとく膨らませ続けてキャラが増え続け私の頭上のクエスチョンマークも増え続けていく謎また謎の展開であります。
正直意味は全く分からないのですが、謎のままでもなんとなく映像や会話の面白さですんなり観れちゃうのが凄いですね。殺し屋のドタバタコメディと不倫現場のシーンがお気に入りです。あと主役の2人が超絶綺麗なのでそんだけで目が離せない!

そして終盤になると謎が増えながら謎が解かれていくという頭ん中ごちゃごちゃな展開に!
結果的に、「わけわかんないけど、そういう話なのはわかった」というはじめに書いたような頭の悪い感想になってしまうのですが、泣けました。
そうわかってから見返すと、前半の監督の扱いとか、殺し屋のどんくさいところもみんな意味が見えてきてびっくり。他にもいろいろと隠された意味があるのでしょうが、あんまり分かんない。ひえー!
あと、ナオミちゃんがメイクとすっぴんとかリタちゃんがイメチェンとかで余計分かりづらい!!いつもメイクしてて!!

まぁそんなこんなでこれから解説サイトを探しに行ってきますが、分からないなりに悪夢的な映像美と悲しい物語が堪能できる面白い映画でした。

関係ないけどマツコの知らない世界ですよねあの曲。思わずマツコ!!って叫んでしまいました。




ストレイト・ストーリー

ストレイト・ストーリー リストア版 [DVD]

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デヴィッド・リンチによる、まさかの心温まるロードムービー

主人公は足が悪いおじいさん。ある日、わだかまりのある兄が倒れたと電話を受けます。ぎくしゃくしたままお別れは嫌だということで、300km離れた兄の家まで1人でお見舞いに行く決意をします。......なんと、芝刈り機に乗って......。


という設定はギャグみたいですが、なんとこれ実話が元らしいです。それを聞いちゃうと、設定への「んな、バカな!」は早々に封じられて、純粋に旅の道中の人間ドラマを楽しむことができました。

ストーリーはリンチらしからぬ"ストレイト"さですが、映像がやや暗めのノスタルジックでオシャレな感じなのはさすが。

そしておじいちゃんと行く先々で出会う人たちとの交流がめっちゃいいんです。
序盤は特に、「え、そんだけ?」とちょっと物足りなくなるくらいの関わりですが、そんな一瞬の時を共にするだけの相手だからこそ、心を晒け出せるようなところがありますね。その時だけの会話でも、それが大事な時間になっていく感じ、素敵なんですよねぇ。
特に、終盤の同世代のおじいちゃんとバーで話すシーンはいきなりのシリアストーンでびっくりしながらも印象深かったです。

そうやって、出会っては別れを繰り返す構成は短編オムニバスのように観ることができるので、そんなに盛り上がりのない物語ではありますがとても観やすい映画だと思います。
ロードムービーの醍醐味が詰まってるのでロードムービー好きな人にはぜひ。それから、リンチの意外な一面に興味がある人にもオススメの傑作です。




早春

早春 デジタル・リマスター版 [Blu-ray]

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モテる女はヤバいよな。
本人に悪気はないのかもしれない。むしろそんなふうに思っちゃうモテないこっちの心根が歪んでるのが悪いのだろう。でも言わせて欲しい。

女ってクソだよな!!!

はい、というわけで、童貞少年がお姉さんに翻弄されちゃう悲しい映画です。

(あらすじ)
15歳のマイク少年は学校を辞めて公衆浴場に就職してそこの同僚の年上赤金髪お姉さんのスーザンにゾッコンになってしまう。しかし彼女には婚約者がいた!ショックのマイク少年はスーザンのストーカーになっていき......。


この童貞少年マイクくんもかなりなとこ美しいお顔をなさっているので私みたいなブサイクはちょっと反感を抱いてしまい最初は感情移入できませんでしたが、見ているうちにこいつなかなかキモいな?と思い始めてからは自分そっくりに見えてきました。まぁ私も美少年ですしね。

はじめての恋というのはおよそこんな感じですね。川谷絵音は「経験とともに恋が下手になる」と書いていますが、それは2回目以降。とにかく初回は一番ダントツ下手。思い出すだけで思い出したくなくなるほどの最悪な黒歴史ですが、マイクくんの下手くそっぷりに否応なく思い出さされてしまいます。銀杏BOYZは「学校帰りに君の後ろをつけてみたんだよ」と書いていますが、私もそうでした。マイクくんも学校帰りでこそないですが、彼女の後をつけます。そのシーンはやたらとコミカルに描かれていますが、だからこそあの頃の側から見たら滑稽であろう自分を思い出して消したくなるのです、記憶を。

それでですね、ヒロインのスーザンとかいう女が、もう少年の人生を狂わせちゃうほどの魅力をたしかにむんむんと発散しているのですよ。銀杏並木みたいなきれいな黄色い髪とちょっと翳のある美貌。これは男子はやられちゃいますよな!そして婚約者がいながらいちいちちょっかいをかけてきやがる。だ〜〜めだこりゃ!
それで映像自体もくすんだパステルカラーみたいなアメリカじゃなくてヨーロッパ的な日曜日の朝みたいな気だるさと美しさと儚さの入り混ざった感じの色使いが最高で、そこに彼女の髪と黄色いコート(エロい!)が映えるんですよね。

そんなわけで、観客もマイクくんと一緒にスーザンに翻弄されながら映画の世界に没入してしまうわけです。そして、彼とともに、徐々に来るっていってしまうのです。

そして、2人きりの水のないプールでのラストシーンの美しさと残酷さとなんか諸々のエモーションよ!プールの水が少しずつ溜まっていくように、私の心にも余韻がじわじわと込み上げてきました。とまぁそれらしいこと言ったのでおしまい!