偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

スピッツ、唯一のクリスマス・ソング「エンドロールには早すぎる」について

おはこんばんちは。

寒くなってきましたね。世間ではもうクリスマスムードが漂い、街を歩けば「雨は夜更けすぎに〜♪」「クリスマスキャロルが〜♪」「War is over〜♪」などと著名クリスマスソングたちが聴きたくなくても耳に入ってきます。
でも世の中が浮かれれば浮かれるほど我々のような非モテ彼女いない童貞ゴミクズ野郎どもの目は血走っていき、寒いからって手を繋ぐカップルたちをどれだけ残虐非道にぶっ◯せるか頭の中でイメトレを始めます。

いかんいかん、こんなクリスマスへの私怨を吐きにきたんじゃなかった。これじゃいつまで経っても本題に入らないのでクリスマスへの怨み節の続きは私のツイッターを見てください。たぶん年末までずっと言い続けてることでしょうからね。



さて、無駄な前置きが長くなりましたが、今回は我々非モテが聴くと共感しつつ余計つらくなるスピッツ唯一のクリスマスソング「エンドロールには早すぎる」のことを書かせてください。

ところで、スピッツって季節でいうといつのイメージでしょう?
きっと「チェリー」から春、アクエリアスのCMソングなどの爽やかなイメージから夏、あとせいぜい「楓」から秋くらいで冬のイメージってないんじゃないでしょうか。
そうなんです、スピッツって実は冬の曲少ないんですよ。というのもボーカルの草野マサムネが福岡出身。雪が頻繁に降るような土地柄でもないから自然冬の曲はあまり書かないそうなんです。また、この草野マサムネという人はめちゃくちゃひねくれ者でもありまして、世間で持て囃されるクリスマスソングにあえて背を向け唾を吐きかけ、どう考えても流行りそうのない七夕ソングなんか書いちゃうようなへそ曲がり(そこに痺れる憧れる)。
というわけで、スピッツの曲で歌詞や題名に「クリスマス」と付くものは私の知る限りほぼありません。強いていえばインディーズ時代の曲で「モグラのクリスマス」というのがあるらしいですが、現在音源化されていませんし......。
そんなクリスマスに反旗を翻す我らがヒーロー・スピッツですが、一曲だけクリスマスという文脈の上に成り立っている曲があります。それがこの「エンドロールには早すぎる」。曲の中で具体的にクリスマスという描写はありませんが、クリスマス文脈に則って聴くとより一層つらさが増す曲なのです。

収録されているアルバムは2013年発売の14th『小さな生き物』



ちなみにアルバムでは7曲目がライブのクライマックスで歌われるような盛り上がる系の「野生のポルカ」という曲、8曲目が幕間のようなインスト曲「scat」で、その次の9曲の「エンドロールには早すぎる」で第2部が始まる、という構成も粋なので出来ればアルバムごと聞いてほしいですにゃん。



パ、パンというクラップの音からこの曲のイントロが始まります。
ベースはぶいぶい、ドラムは打ち込みでパンパンと手拍子もあってダンサブルだけど、EDMというよりもディスコ調という言葉が似合う懐かしいダンスミュージック。曲中でクリスマスの描写がないとは言いましたが、この暖かくもキラキラして踊り出しちゃいそうなイントロだけでなんとなくクリスマスなハッピー感が漂っています。ところがどっこい歌詞は切なくて......。

映画でいうなら 最後の場面
終わりたくないよ スローにして
こんな当たり前が大事だってことに
なんで今気づいてんの?

二人浜辺を 歩いてく
夕陽の赤さに 溶けながら
エンドロールには早すぎる 潮の匂いがこんなにも
寒く切ないものだったなんて

はい、1番の歌詞がこちらです。「エンドロールには早すぎる」という文章の形になった印象的なタイトルですが、ここまで聴いてみると、恋人との別れを映画のエンドロールに喩えた歌(私の解釈であり他の解釈もあるとは思いますが)なのだと分かります。

浜辺の描写がそれこそ映画のように視覚的に描かれているあたりいいですね。夕陽や寒い浜辺の描写から夏の終わり、秋頃の話だと想像されます。「スローにして」という表現も綺麗です。恋人との別れ以外にも、文化祭の最終日とか、ライブのアンコールとかでも、「ああ、終わらないで!」っていう切実な気持ち、アレが「エンドロールには早すぎる」や「スローにして」という短いフレーズだけで見事に言い表されています。

しかしこの曲が本当に凄いのは2番から。

気になるけれど 君の過去には
触れないことで 保たれてた
そんで抱き合って追いかけっこしてさ
失くしそうで怖くなって

恋愛あるあるですね💖
完全に実体験でしょう。そうでなければ書けないと思います。過去に触れない、その紳士的だけどちょっと遠慮しすぎな気もする距離。それで保たれていたものと、抱き合って追いかけっこする近さ、そのギャップ。近ければ近いほど遠さが際立つようなギャップから失うことへの不安が漂ってくるわけですな。そう思い始めた時点で終わりは目の前ですよね。そしてサビ。

着飾った街 さまよってる
まつ毛に風を 受けながら
エンドロールには早すぎる イルミネーションがにじんでく
世界の果てはここにある

ここですよ、この曲をあえてクリスマスソングと言う理由は。「着飾った街」、「イルミネーション」。どう見てもこれはクリスマス!正確にはクリスマス直前の浮かれムード!
クリスマスという文脈を念頭に入れて聴くことで、よりこの歌の主人公の悲しさが胸に迫ってきます。
「エンドロールには早すぎる」という未練がましい気持ちから思わず目がうるうるして「イルミネーションがにじんでく」、そしてそのにじんだイルミネーションを見て「世界の果てはここにある」という感慨を催す、この一連の流れの繋がりも綺麗ですよね。
そこから感傷に没入していくかのようにやや単調な間奏に入っていきます。
そして間奏が明けて

あんな当たり前が大事だってことに
なんで今気づいてんの?

1番の歌詞では「こんな当たり前」だったのが、時が過ぎ冬になり、「あんな当たり前」と過去形になってます。まさかスピッツがこんなあざとい小技を使ってくるなんて!
そして

おかまいなしに めぐりくる
季節が僕を 追い越しても

と、ここでも時の経過を表現しています。切ないけど「おかまいなしに」という気の抜けたワードチョイスはやっぱりスピッツらしくてちょっと笑っちゃったり。そして最後のワンフレーズが強烈です。

エンドロールには早すぎる 君のくしゃみが聞きたいよ
意外なオチに賭けている

君のくしゃみが聞きたいと来るか!いかにも草野マサムネらしい変態的な発想ではありますが、考えれば考えるほど絶妙な言葉のチョイスで泣けてきます。
くしゃみって、普段するようで意外としないですよね。日常でありながら、距離が近くないと案外聞かないし聞いても別に覚えてないのが他人のくしゃみ。そんなくしゃみが聞けないことが、君がいない喪失感を絶妙に言い表してます。もちろんフェチ感もイイ。もう一度キスしたいとか抱きしめたいとかではなく、くしゃみが聞きたい。天才の所業です。

そして、ラスト1行、「意外なオチに賭けている」こんないい締め方あります?もうある種のフィニッシング・ストロークでしょこれ。さらに言えばリドル・ストーリーでもありますね。描かれるのは意外なオチに賭けているという主人公の前向きなようで女々しくもある独白まで。その後、意外なオチが実際に訪れるのかどうかは読み手次第、と。

そう、正直なところ、私が「恋愛とは失恋のことである」という価値観を持っているからあえて別れの歌として聴こうとしているだけで、ポジティブな人が聴けば"君"の大切さに気付いてヨリを戻す決意の歌とも取れるわけです。



いやぁ、それにしても、これを聴いた当初はスピッツがこんなに分かりやすい曲を書くとはと驚きましたよ。
なんせこれまでスピッツのかしといえば1行ずつの繋がりすらわからないような独自のシュールワールドでしたから。これなんか映画が題材ですけどそれこそ歌詞から一本の短編映画を撮れそうな物語性がありますもんね。
そして凄いのが、珍しく分かりやすい歌詞だと思ったらちゃんとエンタメとしての技巧を凝らしているところ。てっきり一読してすぐ分かる歌詞を書けない人だと思っていましたが、とんでもない。ここに来てアートからエンタメへ新たな才能を開花させてしまった......。
あと、分かりやすい中にもあえて「クリスマス」とは一言も言わないような捻くれ具合はきちんと残ってて可愛いですよね!可愛いですよね!



......で、この曲が出たのがもう4年前。その後『醒めない』というアルバムで表題のストレートなロック賛歌や、「エンドロール〜」と同じく技巧的な"失恋"ソング「子グマ!子グマ!」など、スピッツらしいセンスでなおかつ分かりやすい曲をどんどん出し始めて驚いています。極め付けは先日発売されたベストに収録の新曲「1987→」!あざとすぎるほどにファンサービスしてます。30周年だしね。

というわけで、近年のスピッツは50歳にもなるとそういう気分になるのか知りませんが、かなりストレートな歌詞に寄ってきています。そのはっきりとした前兆がこの「エンドロールには早すぎる」ではないでしょうか。今のスピッツを知るためには重要な曲です!30周年の今年の冬、幸せな人も不幸せな人もぜひ聴いてほしい一曲であります。あと幸せな人はそのままご爆発くださいどうぞ!

















































クリスマスにつらい思い出がある人だって多いはずなのに、こんな11月の段階からやれクリスマスソング特集、クリスマスケーキのご予約はとかクリスマスプレゼントに絵本はいかが?なんてどこに行ってもクリスマス一色。そんな状態で思い出すなという方が無理な話で、昔のことを考えていたら思い出のこの曲について書きたくなった次第。つまりは完全な自己満ですけど、どうせ誰も読んでないからいいよね。