偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

陸秋槎『文学少女対数学少女』感想

華文ミステリの新鋭による連作短編集。
日本での文庫としては初。
前から気になってたけど文庫派だからポケみすのは読まずに、この機会に初読みしてみました。



タイトルの通り、ミステリ好きの"文学少女"陸秋槎と天才数学少女の韓采盧の関係を描いた連作。

秋槎が描くものをはじめ、全話に作中作が挿入され、現実では現実でなんかしらの事件が起き、采盧による数学ペダントリーがミステリ論と接続され、高校生の主人公たちの成長をリアルに描いていく青春小説でもある......。
多重のレイヤー、様々な要素をぶっ込んだ労作にして野心作。

正直なところ詰め込みすぎていて一つ一つの要素にあまりインパクトがなかったりはするのですが、本書はむしろミステリ論として楽しむべき。
犯人当てや作中現実での事件そのものを楽しむというよりは、推理小説の自由を宣言し、推理小説の多様なあり方が示唆されるのにエモさを感じる作品なんですよね。

とは言っても、作中作は稚拙なところもあるだけに私みたいな推理苦手系ミステリファンでもかなり"真相"に近づけたりもして楽しかったです。


各話に一言ずつ触れておくと、第一話の連続体仮説はキャラと本書の目指す方向性を紹介する感じで、作中作を読み解くだけのお話。その分作中作の分量はガッツリめで、難易度はあまり高くないので着実に考えて解いていく楽しさを味わえました。そして最後のあの宣言が爽快!

フェルマー最後の事件」ではフェルマーさんの人となりと、フェルマーの最終定理とを作中作の犯人当てに織り込むという離れ技が決まっていて、あまりに捻くれた設問と論理展開に痺れました。麻......や連......といった大物作家をディスってるのも笑う。
本書中でのマイフェイバリット短編です。

不動点定理」は、逆に1番印象が薄かったです。
作中作があまりにもざっくりしているので、なんつーか、暖簾に腕押しみたいな感覚になってしまいます。
とは言っても、あのあまりにも捻くれた犯人特定のロジックは笑いました。そして、物語との絡め方も見事。

最後の「グランディ級数は、作中作もガッツリで、作中現実の事件もついに殺人事件が起こっちゃって、最終話に見合ったボリューム感。
ここに来て、もうすぐ高校を卒業して大学へ入る時期の夏休み(日本人には不思議な感じですけど)が描かれててエモい。
自由すぎる作中作の趣向と、自由すぎる結末は、切ない話なのになんだか痛快な気分にさせてくれます。
これで終わり?と思ってしまうような、それでいてちゃんと終わってる終わり方が上手いっすね。

綿矢りさ『勝手にふるえてろ』感想

綿矢りさにハマりました。


勝手にふるえてろ (文春文庫)

勝手にふるえてろ (文春文庫)


『憤死』『蹴りたい背中』を読むまでは10代で芥川賞取った顔がめちゃ可愛い作家くらいのイメージしかなかったですが、その2作を読んで「結構好きかも......」となって、本書でついにハマりました。

本作が特にかもしれませんが、綿矢りさの文章って太宰治っぽさがあるんですよね。
冒頭の1文の強烈な魅力、模範的ではないけど非の打ちどころのないリズミカルな文体、自意識の強い主人公の語り、自虐ネタを下品にならずにユーモラスに描くところなんかも。
と思って調べたら、やっぱり影響を受けてるらしい。

本作も冒頭の1文からして良いんです。

とどきますか。とどきません。

シンプルにぐっと惹きつけるこのフレーズからして本作の雰囲気が全部詰まっているようで素晴らしい。

音姫のくだりとか、妊娠のくだりなんかはちょっと声出ちゃうくらい笑いました。太宰の「畜犬談」なんかも声出ましたからね。


でも、太宰の悲劇性と比べると、彼女の描く主人公は恵まれている気がします。
太宰にかぶれてるけど人生でそんな大きな不幸に直面したこともない拗らせ人間の日常、みたいな印象で。「業」が足りないと言いますか。
そこが現代の豊かな時代に生きながらも自意識が過剰なゆえにアレコレと悩んでしまう我々からしたら共感しやすく、読後に大きく残るものはないようでいて、小さいけどなかなか消えない傷痕のようなものが残ってヒリヒリします。
「痛くなかったら死んでる」のくだりとかね、太宰ほどの自殺願望ではなく、現代らしいなんちゃっての死にたみが的確に言い表されていますよね。

そして、初めてプライドの柵を越えるようなラストがまた良いっすね。ちょっと狙いすぎな感もあるけど、最後の最後でやっとアレをアレするっていう......。
自分のことなんて誰も分かってくれないけど、自分だって他人の本当の姿を見つめられているのか......いや、そもそも本当の自分とはなんなのか......つまるところ、私以外私じゃないのということでありまして、突き放したようなタイトルも痛快。
我々拗らせ人間にはめっちゃ刺さる作品でした。

そして、併録の「仲良くしようか」は、夢とも現ともつかぬシーンが並べられた、表題作の分かりやすさとは正反対の作品。
しかし、著者本人を投影しているとしか思わせない主人公が、読者を含む自身の周辺への感情を吐露するところには耳が痛くなったりするあたりはやっぱり太宰感。これはこれで好きです。

2020年に読んだ本ベスト10


はい、こんにちは。
こないだのアルバムランキングに引き続きまして今年読んだ本ランキングです。
今年は90冊ちょっと読みましたが、半分くらいは穂村弘浦賀和宏で、他の作家のはあんま読んでないので、例年みたいにベスト20じゃなくて、10でいきます。

今年はイルミネションも見に行けなかったので車に乗ったら3℃で驚いた時の写真を。
ゆうてる間に今や0ですからね。おそロシア



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ではさっそく10位から発表していきます。

ちなみに一言コメントも付けますが、ほとんどはブログに既に上げてる作品なのでそっちも読んでもらえると嬉しいです。




10.アレン・エスケンス『償いの雪が降る』

アレン・エスケンス『償いの雪が降る』読書感想文 - 偽物の映画館

アメリカの気鋭作家さんのデビュー作なんですが、ミステリとしてはやや物足りないものの青春小説としては絶品な青春ミステリです。




9.三山喬『ホームレス歌人のいた冬』

三山喬『ホームレス歌人のいた冬』読書感想文 - 偽物の映画館

かつて朝日新聞の歌壇を賑わせながら、短い投稿期間を経て蜃気楼のように消え去った"ホームレス歌人"のその後を追うルポ。
ノンフィクションなんだけど、謎めいた人物を追うミステリーとしても読めるし、ホームレス歌人の作品や生き様が素晴らしく、取材の過程で出会う人たちのドラマでもありながら著者自身の物語にもなっていく、小説のように読めちゃうルポルタージュです。おすすめです。




8.穂村弘『現実入門』

敬愛するエッセイストにして歌人(逆か)の穂村弘さんによる虚実入り乱れたエッセイ風の何か。
「極端に臆病で怠惰で好奇心がない性格」の穂村弘献血や占い、モデルルーム見学など、今までの人生で経験してこなかったことを一気にやっていく爆笑体験ルポエッセイ......なんだけど、最後まで読むと良質の幻想小説のような、それでいて極度の捻くれ者による恋愛小説のような、ヒジョーに不思議な読後感があり、本書を機に一気に穂村ファンになった記念の一冊として8位に入れておきます。他のエッセイもほとんど読んだけど全部面白いです。自虐をユーモアに包んで読者に「穂村は俺だ......!」とまで思わせるほどの共感を与えつつ、どこかで一線を引くように「俺は穂村にはなれない......」とも思わせるあたりの読み心地は太宰治に通ずるものがあります。ほむほむ大好き。




7.綿矢りさ勝手にふるえてろ

勝手にふるえてろ (文春文庫)

勝手にふるえてろ (文春文庫)

同じく太宰枠(なんだそれ)から、綿矢りさの代表作。
タイトルや、1行目のキャッチーさ、声に出して読みたくなるような軽やかで気持ち良い文章、やはり自虐的な内容を面白おかしく書くあたりが太宰感。
それでいて太宰ほどの悲劇性がなく、いい意味で軽くて、私にはより感情移入しやすかったです。とともに、女性主人公ならではの男には分からないネタの数々にも爆笑。
想像してたのの100億万倍エンタメ性高くて超面白かったです。




6.トマス・H・クック『緋色の記憶』

緋色の記憶 (文春文庫)

緋色の記憶 (文春文庫)

田舎村に赴任してきた美しい美術教師と、妻子ある男性教師の関係が引き起こした事件を、当時中学生だった"私"の回想で描き出した悲劇。

話の核心である"チャタム校事件"の全貌が最後まで語られないままに細緻な心理描写を重ねていくクックらしい重厚でやるせない人間ドラマ。
ミステリとしてはインパクトが弱いものの、そんなことはどうでもよくなるほどの強い印象が残りました。暗い物語を描くことで逆説的に光を描く、著者の代表作と呼ばれるに相応しい傑作。




5.小川勝己『まどろむベイビーキッス』

まどろむベイビーキッス (角川文庫)

まどろむベイビーキッス (角川文庫)

キャバクラ嬢の主人公。職場では醜い人間関係が展開され、唯一の癒しである自身のホームページでは掲示板を荒らされ......というところからはじまる、小川勝己らしいリビドーに満ちた幻想ミステリ。
先の読めないプログレな展開と、シンプルに切れ味鋭い真相、そしてエモさの三拍子揃った傑作。
個人サイトという題材は古く感じられますが、そこから描かれるテーマは普遍的なもので、特にSNS社会の現代にこそ読まれるべき作品だと思います。




4.葵遼太『処女のまま死ぬやつなんていない、みんな世の中にやられちまうからな』

恋人を病で失った"2度目の"高校3年生の主人公が、新しいクラスで出会ったギャル、オタク、吃音少女というはぐれ者たちとバンドを組むお話。

バンドを組むお話、特に少年少女がバンドを組むお話は大好きだし、不謹慎かも知れませんが死別モノも大好物。その点死別してからバンドを組む本作は好きの二乗でどハマりました。
バンドをやりながら前に進む話なので湿っぽくはなりすぎず、けれども確かに喪失の哀しみも描かれていて、読みやすくも心に残る作品。




3.松浦理英子『親指Pの修業時代』

親指Pの修業時代 上 (河出文庫)

親指Pの修業時代 上 (河出文庫)

親指Pの修業時代 下 (河出文庫)

親指Pの修業時代 下 (河出文庫)

ある朝目が覚めると足の親指がペニスになっていたーー。
女子大生の主人公の身に起こった出来事から、恋人との関係の変化や性の見世物集団での出来事を繊細に描いていく異色の物語。

......っていう発端こそ衝撃的なものの、内容はとても真摯な人間ドラマです。
描かれるセックスやジェンダーというものに関しての問いかけには、作中で明確な答えなどは出ません。しかし、だからこそ読後も考えさせられて長く余韻を残す名作です。




2.二階堂奥歯『八本脚の蝶』

八本脚の蝶 (河出文庫)

八本脚の蝶 (河出文庫)

25歳で自ら命を絶った編集者が、死までの2年間に綴ったブログを書籍化したもの。

とはいえ日記の大半は、稀代のビブリオマニアである彼女が様々なジャンルの本をはじめ、ぬいぐるみやファッションなど好きなものへの愛を語るもので、無邪気な少女の話を聞くようでありながら、私などは及びも付かぬ天才の脳内を覗くような、楽しくもスリリングな読み心地でした。
それだけに終盤彼女がどんどん死へと吸い寄せられていく様には泣きそうになったし、最後は泣きました。
それでも、不謹慎かも知れませんが彼女の勇気には憧れてしまう。私も彼女と同じ25歳から、彼女がならなかった26歳になる頃に読んだので一層思い入れの強い一冊となりました。




1.浦賀和宏『八木剛士・松浦純菜』シリーズ

今年の1月にこのシリーズを読み、年明け早々死にたくなりながら2月になってしまった。
その後、浦賀和宏は本当に死んじゃったし、私も本当に死にたいと思ったり、色々なことがあったけど、結局今年1年の私の気分を決定づけたのはこのシリーズなんですよね。
これを読んでいた頃にはまだマスクもしてなかったのかと思うとこの1年での世界の変わり方に改めて驚かされます。
浦賀和宏のご冥福なんて祈らねえ。俺を残して安藤直樹の結末も残して死にやがってクソが。と思う。

2020年、私的アルバムランキング!!

はい、それでは今年もやってまいりました年末恒例のこのコーナー!

今年の新作アルバムの中からランキングを付けていきますが、なんせ今年は個人的に井上陽水にどハマりしつつユーミンRadioheadDavid Bowieなどをちょいちょい聴いてたので、あんま新譜聴けてないんすよね。忙しいし!

でもまぁなんとか十数枚は聴いたのでその中から作ります。毎年恒例の言い訳ですが、音楽シーンを総括したりとかは全く出来ない個人的備忘録のようなランキングですが、どれも好きな作品には違いないのでよかったら聴いてもらえると嬉しいです。

ではではまずは10位から!




10.Sebastian Maschat & Erlend Oye「Quarantine at El Ganzo」

Quarantine at El Ganzo

Quarantine at El Ganzo

  • 発売日: 2020/07/31
  • メディア: MP3 ダウンロード

フォークデュオKings Of Covinienceや、エレクトロポップバンドThe Whitest Boy Aliveで活躍し、近年はソロでの作品も多いアーランド・オイエ氏。

本作は、The Whitest Boy Aliveのドラマーとのコラボ作。2人がそれぞれに作曲、ボーカルを担当する曲が交互に収録されています。
詳しくは知らないんですけど、本作の成立の経緯が面白いんですよね。
The Whitest Boy Aliveでフェスに出演するためにメキシコに行ったらコロナの影響でフェスが中止になっちゃって、旅行の制限で2人だけがメキシコに滞在できたので、そこでそのままアルバム作っちゃった、みたいな感じらしいっす。

そんな経緯のためか、全体に非常にシンプルなバンドサウンドで、夏のリゾート地でホテルの部屋でごろごろしながら聴きたい感じです。2人のハモリの美しさはKoCを思わせるところもありつつ、もうちょい明るい印象の曲が並びます。
歌詞は日本語じゃないから聴き取れないですけど(馬鹿)、アルバムタイトルや曲名にもコロナ関連ワードが散りばめられていて、今年だからこそ出来たアルバムだと思います。
また、今年のこんな時だからこそ、こういう優しく温かい夏休み感の強いアルバムを聴きたいってのもありますね。2020ならではの名盤です。




9. ヨルシカ「盗作」

盗作(通常盤)

盗作(通常盤)

  • アーティスト:ヨルシカ
  • 発売日: 2020/07/29
  • メディア: CD

「へん、どうせピアノメインのボカロ上がりバンドやろ」なんて昨年あたりまではちょっと舐めてたヨルシカさんですが、井上陽水トリビュートの「Make-Up Shadow」がめちゃくちゃ良かったので新アルバムも聴いてみたらやはりめちゃくちゃ良かったです。その節は申し訳ありませんでした。

たしかにピアノメインのボカロっぽバンドではあったんですけど、ボカロ的わちゃわちゃ感と、最近流行りの歌謡曲感、井上陽水感的なものもがっつり取り入れられてて新しいような懐かしいような、昭和平成令和折衷みたいなサウンドが気持ちいいです。

また、「音楽を盗む男」を描いたコンセプトアルバムになっているのも、今のこのご時世にチャレンジングでカッコいいっす。
10曲+インタルード4曲で描かれる、切実で意味深な物語......。アルバムを一枚ガッツリ聴くことの楽しさ。

まだ足りない。全部足りない。何一つも満たされない

という表題曲のサビの歌詞に象徴されるように、物質的には満たされすぎた現代人の、それでも満たされないこの気持ちを歌ってくれつつ、終盤では夏の終わりに儚くも美しい思い出を重ねた抒情的な数曲で締めてくれるので後味はさっぱり。

懐かしくも新しく、重厚にして軽やかな名盤です。




8.The Strokes「The New Abnormal」

ザ・ニュー・アブノーマル (通常盤)

ザ・ニュー・アブノーマル (通常盤)

これはもう全然知らなかったバンドなんですけど、MTVかなんかで「Bad Decisions」のMVを観てビビッと来たので聴いてみました。

この、ビビッと来た瞬間に調べて聴けるのがストリーミングの恐ろしいところですね。どんどん気になる音楽が増えていく。

で、他の作品もバンドの来歴も知らないんですけど、このアルバムを聴いた分では、シンセポップとギターロックの共存という感じ。
ポップで踊れるんだけど、淡々としたクールさもあってメランコリックな気分の時にもわりと聴けちゃいます。

Bad Decisionsなんかはかなり王道のギターポップって感じっすけど、どっちかというとBrooklyn Bridge to ChorusとかAt the Doorみたいなイントロからしてシンセがバリバリな曲のが好きかもです。
なんせ例によって英語だと歌詞も聞き取れない、来歴も知らないなので何も書けないけど、クセになっちゃってちょいちょい聴き返してるし今後も時折思い出して聴くんだろうなと思わせる名盤です。




7.TTRRUUCES「TTRRUUCES」

Ttrruuces

Ttrruuces

  • アーティスト:Ttrruuces
  • 発売日: 2020/07/03
  • メディア: CD

英語の歌詞が聴き取れないだけでなく英語のツイートやインスタも読めないので、このバンドが何者なのかイマイチ分かってないんですけど、2019年にシングル「Sad Girl」でデビューしたニューカマーな2人組バンドみたいです。

ビートルズとかクイーンとかデヴィッドボウイあたりの影響がありそうなキャッチーだけどダークな世界観のロックサウンドがめちゃくちゃクセになるのと、映像とかにも世界観が作り込まれていてこだわりを感じるのと、アレンジの振り幅が多いのが素敵。


デビューシングルの「Sad Girl」はフィンガーノイズがクセになるアコースティックな曲かと思いきや後半割とガンガン盛り上がる展開で切なくも楽しい曲。


これまたクセになる曲。ふぉんふぉんっていう笛みたいな音(なんなのか分からんけど)と、シンプルなリズムと、キャッチーなメロディと、歌声がもう全部クセになる。
さらに摩訶不思議なPVも何度見ても楽しい。このビデオはもっとバズってもいいと思うんだけどなぁ。


これはタイトルの通りディスコ感全開の、体が強制的に踊らされてしまうようなナンバー。
チャカポコとかピューンとか目覚まし時計とかハンドクラップとか、賑やかな曲が多いこのバンドの中でも特に色んな音が詰め込まれた遊び心あふれる曲でヴァイヴスいと上りけりますよ。
これもビデオがまた過剰にレトロ趣味でいいんすよねえ。


これはたぶん自己紹介ソング的なセルフタイトル曲。
歌詞の内容は分かんないすけど、サビ?の「You're on a bad trip baby」というフレーズはこのバンドのキャッチコピーになってるから、やっぱり自己紹介ソングなんでしょう。
DUNEのパロディとかMTVとか、リアタイで知らないから逆に新鮮に感じられるPVがやっぱり良くって、このビデオももっとバズってもいいと思うんですけどねぇ。


そんな感じで、一貫した強い世界観をダークにポップに描きつつ色んな味が楽しめる、デビューアルバムにして圧の強すぎる名盤です。
順位はここですが、今年はこのバンドを1番紹介したかった!聴けばハマるんで聴いて!




6.The 1975「Notes On A Conditional Form」

Notes On A Conditional Form [Explicit]

Notes On A Conditional Form [Explicit]

  • 発売日: 2020/05/22
  • メディア: MP3 ダウンロード

なんか歌詞も聞き取れないくせにこれを挙げるのミーハーみたいで嫌なんですけど、今年何回も聴いたってことならこれだなぁと思って。

このバンド元から結構好きな曲もあって聴いてたんですけど(セックスとかチョコレートとかラブミーとかベタなのが好き)、本作はなんと22曲入りの超大作。

グレタさんのスピーチがオープニングで、からの今までにないパンクな「People」で頭を振りつつ心掴まれたと思いきやそっからは静かな曲が大半なんだけど、一曲ずつに個性がありすぎて通しで聴いてるとバラバラの音楽性をコラージュしたでっけえパッチワークを観てるような気分になります。

「Then Because She Goes」「Roadkill」の短くてシンプルで温かみのあるサウンドや、「Jesus Christ〜」のアコースティック感が好きだったりする一方、「Me & You〜」「The Birthday Party」といったベタにキャッチーなのもやっぱ好きだし、はたまた意外と「Shiny Collarbone」なんかも好きなんですよ。

どうやら歌詞もまた凄いらしいから教養がなくて英語わかんないことが悔やまれますが、音だけ聴いててもめちゃくちゃ楽しい名盤だと思います。




5.Mr.Children「SOUNDTRACKS」

SOUNDTRACKS 通常盤 (CD / 32Pブックレット)

SOUNDTRACKS 通常盤 (CD / 32Pブックレット)

  • アーティスト:Mr.Children
  • 発売日: 2020/12/02
  • メディア: CD

なんだかんだ上位は歌詞の分かるやつにしたいのでこっからは邦楽のコーナー()

ミスチルのこと私はほんとにリアルガチで嫌いだし、本作も今の時代にサブスクはともかく購買の配信リリースすらしないなんてまじ老害だよなクソがと思いながら、今やCD屋も減りに減ってしまったので車で20分かけて買いに行かされたくらいミスチルのこと嫌いなんですけど、本作もほんとクソでしたわ。最低駄作です。

散々待たせておいて10曲しか入ってないとこも嫌い。

一曲目から不穏な空気の中で急に下ネタ言い出しながらなんだかんだ前向きにまとめちゃう「DANCING SHOES」は嫌い。

「可能星」って造語が死ぬほどダサくて抑制された序盤からミスチルらしいエモさが爆発する「Brand new planet」も嫌い。

ありきたりなポップソングの「turn over?」も嫌い。

孫に話しかけるジジイみたいな優しすぎる歌声が気持ち悪くて感動の押し売りみたいなメロディのエモさとアウトロが無駄に長くてオシャレって言わせたいんだろうなってとこもダサい「君と重ねたモノローグ」はもちろん嫌い。

お前らこういう曲も聞きたいんだろっていうドヤ感が透けて見える切なく儚い終期ビートルズ感のあるような気がしなくもない無常感が苦しくなってきちゃう「losstime」も嫌いなんだからねっ!

からの、リートトラックですエモいだろ(ドヤ)ってまたドヤ感出してくる「Documentary film」の、イントロからすっと入る「今日は何もなかった」という歌詞に共感とか全く出来ないしメロディが良すぎて別にメロディが良けりゃいいってもんでもねえだろむかつくなぁって思うし大嫌いだわこの曲。


ドラえもんの主題歌でお馴染みの「Birthday」も、切ない前曲からB面に切り替わって心機一転みたいな感じで思わず腕を振り上げてしまいたくなる突き抜けた爽快感と力強さと背中を押してくれるような優しさがなんか売れようとしてる感じがして嫌い。

CMで今年1番たくさん聴いたんじゃないかって思う「others」は、CMにかかってた印象的なフレーズ「君の指に触れ 唇に触れ 時が止まった」からアツアツな純愛ソングかと思ってたらまさかの歌詞の内容に驚かされて、何が起こったの?は俺のセリフじゃいと言いたくなるし、イントロなんかモロにLet it beのパクリだし、こういう高くてエロい声出しとけばファンは喜ぶと思ってるんだけど俺はファンじゃねえお前なんか嫌いだ!

ミスチルっぽくないothersから急にミスチルらしさが横溢しすぎてもはやミスチルのパロディみたいにすら聴こえるクソポップソング「The song of praise」は普通に嫌い。

トリを飾る「memories」も歌い出しから鳥肌立つような猫撫で声が耳障りだし、最後は静かに終わっとけばなんか有終の美でしょみたいなとこも嫌い。

極め付けは歌詞カードの最後になんかポエムが載ってるのもダサくて嫌い。

ほんとに、ミスチルって大嫌いだなぁと改めて思わせてくれた駄盤です。

※この感想はフィクションです。実際の人物・団体・感情とは一切関係がありません




4.BaseBallBear「C3」

C3【deluxe edition】(CD+DVD)

C3【deluxe edition】(CD+DVD)

  • アーティスト:Base Ball Bear
  • 発売日: 2020/01/22
  • メディア: CD

4人バンド時代がChapter1、ギター湯浅の脱退を受けてサポートギターを入れて試行錯誤したChapter2、からの、3人バンドとして、3人だけの音で戦っていくことを決意したバンドの"Chapter3"の開幕を高らかに鳴らすのが本作「C3」。

死、She、See、詩などの「C」、視の時代を描いた「C2」に対して、今回は「3」という数字の方に重点を置きつつCシリーズとして原点回帰的意味付けをしてきた、成立経緯からしてファンにとってはエモすぎる1枚。
この人って、ほんとにこういう意味付けがお上手で......。

これまで頻繁にテーマにしてきた「夏」からの、本作では「秋」を描くことでバンドの成熟と新たな季節を表してるのとかも上手い"意味付け"で......。

それがはっきりと表れてるのが二曲目の「いまは僕の目を見て」

バンドの代表曲であり大人気曲であるPERFECT BLUE」のパラレルな続編のような歌詞で、「雨」「手紙」「煙」というキーワードを共有しながら、「君は翔んだ」「君の知らない季節」のパーフェクトブルーに対しての「君がいれば季節も越えられる」という歌詞がエモい以外のなんて言えばいいのか分かんねえ小出愛してるお前は天才だよゲロゲロ🤮!!!

秋の曲だと、「セプテンバー・ステップス」の、ベボベらしくもちょっと大人びた静かな切なさを感じさせるところも大好き。

一方、秋と並ぶもう一つのテーマがBaseBallBear
親交の深いRHYMESTERの影響を受けてそうな、バンドの来歴とスタンスをラップする「EIGHT BEAT詩」は小出くんの意味付け力の宝庫
ユーモアも織り交ぜながら自身の過去作品も引用しながら生々しく綴られる小さな叙事詩

同じくラップ曲でありつつこちらは抽象的な、それでいてやはりベボベの在り様を描いた「PARK」も良い。

EIGHT BEAT詩というフレーズをrepriseしながら「3」という数字を繰り返しながらメンバー全員がソロボーカルを取る「スリーピース宣言」のようなポラリスがまたエモいんすわ。この曲のせいでちょっとポリスまで聴いちゃったしロクサーヌ最高だわ。

そして、終盤では、ゆったりとしかし力強く、ちょっと大人になった僕たちのストレートなラブソング「cross words」。

締めの、単調な生活を"旅"と重ねた「風来」は、偶然ですが旅に出られなくなってしまった今この時に聴くとまた励まされる歌で......。

血の巡りを固めないためには 同じ姿勢でいないこと

という歌詞がコロナと関係なくたまたま書かれてるところに「小出持ってんなぁ」と思います。

んなわけで、2020年の新譜とは言いながらも、昨年に出たEP2枚の計8曲をベースにしているところでやや減点してしまいましたが、大好きなバンドの決意表明への思い入れでは1位でも全然いいくらいだし、なんだかんだ現在の状況とのシンクロニシティも感じられる名盤です。










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さて、第4位まで発表してきましたが、ベスト3に行く前に、アルバムじゃないけど今年ハマった曲をサラッと紹介していきます。

Therefore I Am / Billie Eilish

静かだけど不穏だけど踊れる曲。今やビリーアイリッシュ聞いてるだけでオシャレ?むしろミーハーで恥ずい?でも良いもんは良いんす。
やはり歌詞は分かんないけど消費社会を皮肉ってそうな印象のPVも素敵。たのしそう。


Marigolds / early eyes

シティポップとかにも通じるものを感じつつ異国情緒もあり、とにかく聴いてて気持ちよくて踊り出しちゃうような多幸感に溢れた曲。
このバンド、今最注目!この曲も入ったEPを出したんですけどそれがめちゃくちゃ良かったので今後に期待!


Torpi / Marco Castello

どこの誰なのか全く知らんけどこの曲の中毒性がヤバすぎて一時期一日中聴いてました。
曲を構成する全ての音が心地よく楽しくワクワクする。声もドンピシャ好み。とりあえず騙されたと思って聴いてみてほしい曲大賞。


kate's not here / girl in red

去年も紹介しましたが、今年また一段と躍進を遂げたこの人。
既にキテるけど、来年こそは爆発的に大ヒットするであろうと予言しときます。




というわけで、曲単位で今年良かったやつシリーズでした〜。

それでは、いよいよベスト3の発表です。どこどこどこどこ......。

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3.ゲスの極み乙女。「ストリーミング、CD、レコード」


ストリーミング、CD、レコード

ストリーミング、CD、レコード

  • 発売日: 2020/05/01
  • メディア: MP3 ダウンロード


年末恒例ですが、このアルバムランキングシリーズは川谷絵音氏と癒着していますので悪しからず。

今年はインディゴの新作が出なかったのでゲスを。
ちなみに来年はインディゴの新作が出るのでそれを一位にする!と今から宣言しておきます!(ゴミブログだなほんと)

さて、本作はまずタイトルが印象的。
ふざけているようでいて、ストリーミングが頭角を表しつつCDもまだ残っている一方レコードは独自のブームを生んでいる現代の混沌とした音楽事情をそのまま冠した意味深なタイトルです。

そんなある種皮肉めいたタイトルを体現するように、本作の"通常盤"はCDケースに歌詞カードだけ入ってCDは入っておらず、代わりにCDに似た形の"バームクーヘン"が付いてくるという、世界初の賞味期限付きアルバム。
音楽が凄い速さで消費されていく現代をユーモラスに皮肉るのはこのバンドにしか出来ない芸当。さすがです。


内容も、ちゃんとキャッチーでありながら、それぞれ全く違う個性を持っていて、でも全てな曲ってことだけ共通した、混沌としたアルバムです。


ゲスの近作を振り返ってみると、「両成敗」から「好きなら問わない」までの作品は、全てあの騒動を引きずったり、「あえて引きずらないように」しながら地続きになっていたような感があります。

一方本作では本当にそういうところから解放されて、全く違うバンドのデビュー作かってくらいガラッと雰囲気が変わっていて、正直初めて聴いた時はピンと来なかったし「なんか違う......」とさえ思いましたが、聴いてるうちにどんどんクセになって、今でもしょっちゅうふと口ずさんだりしてしまいます。

そうしてガラッと変貌した一方で「私以外も私」「キラーボールをもう一度」といった騒動以前の曲の続編みたいなのは入ってて、「4人で楽しくわちゃわちゃと変な曲をやる」っていう真に原点回帰的な作品だと言えるのかもしれません。

けどサウンド的には、4人組バンドとしてのフォーマットを無視するように、ギター全然弾かない代わりに管楽器弦楽器を外部から取り入れたり、バキバキに打ち込みを使ったり、ちゃんMARIがメインボーカルを務めたりといった取り組みも面白い。あとベースがめちゃフィーチャーされていてカッコ良すぎます。課長に惚れる。

歌詞もまた多彩。
ユーモアに徹した曲もあれば(まぁあんま笑えないけど。この人笑いのセンスがないことだけは玉に瑕だよね)、現代の閉塞感を捉えた詩もあり、かと思えばアダルトな雰囲気を纏った歌、ストレートに切ないラブソングに、「選択に疲れた30歳」のリアルをラップするラストの「マルカ」まで、乱反射しながら今の時代、今の自分、今のゲスの極み乙女。を描き出した万華鏡のような一枚。

ずっとファンでいるけど、これはもう自信を持って「このバンドのファンです!みんなも聴いて!」と叫べるような名盤です。

ちなみに余談ですがこないだの配信ライブ「ゲス乙女大集会」も、これまでのキャリアを総括しつつ、「このバンドのファンでいて良かった」と心底思わせてくれる素晴らしいライブでした(相変わらず笑いのセンスだけはなかったし大好きな曲をつまらないギャグパートに使われてキレたけど)。

ちなみにちなみに、本作からは何曲か公式の英詞カバーも出ているので、川谷絵音の声がどうしてもダメな方にはこれを聴いて欲しい......。




2.米津玄師「STRAY SHEEP」

STRAY SHEEP (通常盤) (特典なし)

STRAY SHEEP (通常盤) (特典なし)

  • アーティスト:米津玄師
  • 発売日: 2020/08/05
  • メディア: CD

なんかもうベタすぎて入れたくないけどしょうがないシリーズ。

今年を代表する一枚でありつつ、2018年の「Lemon」以降の、一気に国民的大スターになった米津玄師の集大成でもある大作です。

正直個人的には米津玄師は好きだけど苦手という感じで、彼のあまりの真摯さ、気高さになんか気後れしちゃうというか、自分なんかが彼の音楽に感動する資格はないと思っちゃうんですよね(その点川谷絵音はその辺の兄ちゃんだからな)。

おそらく彼が自分の軸をしっかり持っているからか、アルバムを通して聴いてもしっかりたまとまりを感じられるんですけど、その一方で15曲も入ってて印象がダブる曲がないという曲調色々贅沢アルバムでもあって、初めて聴いた時の一曲一曲再生する度に「お、こうきたか!」「まじかよかっけえw」と興奮させられる体験は忘れ難いものがあります(まぁ半分ほど既発曲ではあるんだけど)。

いまさら私なぞが彼の音楽性を云々したところでしょうがないので特に好きな曲に一言ずつコメントしていきたいと思います。

まず「Flamingo」は、シングルとしてリリースされて初めて聴いた時に「米津玄師始まったわ」と思いました()。
世界的なトレンドっぽいサウンドのイントロと演歌みたいなこぶしの効いた歌の違和感と、PVのダンスのインパクトがすげえ。

PLACEBOは米津と野田洋次郎のコラボならバラードだろうという謎の先入観をバッサリ切り捨てられたオシャレダンスチューン。
米津が歌う1番のヴァースと野田洋次郎が歌う2番のヴァースがメロディごとガラッと違うのがなんかエモい。
最後の方の2人の掛け合いも、RADのファンでもあるのでエモい。この2人が組んでるだけでエモい。そんな曲です。語彙。

「パプリカ」は、無邪気な子供たちが歌う原曲とガラッと雰囲気を変え、無邪気な子供だった頃を思い出す大人のノスタルジーが出てて、どちらも甲乙つけがたいですね。
洋楽っぽいリズムやサウンドに和のノスタルジーを持ち込んでいるあたりは「打上花火」や「海の幽霊」とも通じて、どれも大好きな曲です。

捻くれ者なので敢えてレモンや表題曲には触れず、馬と鹿も実はあんま好きじゃないので飛ばして、「Decollete」がエグくかっこいいんすよね。
ちょっとスカッとした余白の多い、それでいて色んな音がわちゃわちゃ入ったサウンドがクセになる。聴いたことないけどどこか懐かしさもある変な歌。好きです。偏愛。

「TEENAGE RIOT」はシングルで聴いた時にはフラミンゴのインパクトで霞んで普通の曲やなと思ってしまいましたが、改めて聴くと、そのシンプルさがこれだけ複雑な曲を聴いた後ではストレートに突き刺さってきてめちゃカッケェっす。

「海の幽霊」は米津玄師の中でも1番好きな曲。『海獣の子供』を映画館に見に行ったこともあって、映画のストーリーをなぞるような歌詞に、普段聴いてる時でも映画のテーマが重なってきて感動2倍。
シンプルなピアノの音と多重録音したようなボーカルからして命というテーマを切実に語る気満々で、トラップやディープな重低音に「俺って歌上手いんじゃね?」と気付いたような熱唱スタイルが重いテーマに説得力を持たせます。
今ここにいる私と、母なる海と、それよりもっと壮大な宇宙とがシンクロする荘厳な快楽があって。でも、聴き終わるとちょっと物足りないくらいで、長いようで短かった夏休みの終わりのような余韻に浸れます。名曲すぎる。

そして最後の「カナリヤ」は、こないだ彼女と一瞬別れて再結成した時に「あなたを振った後にカナリヤを聴いて切なくなった」と言われて以来、初めて聴いた時には「しんきくせーな」で終わってたのが嘘のように特別な歌になって、「海の幽霊」とこの曲への思い入れだけで2位に選んだまであります。
あなたじゃなくても良いという前提があってからの、あなたとならいいよ、っていう。ね。

そんなこんなで、米津そこまで好きじゃねえ説をぶっ飛ばしてまで良いと思える名盤です。




1.松任谷由実「深海の街」

深海の街(通常盤)(特典:ナシ)

深海の街(通常盤)(特典:ナシ)

はい、栄えある一位は、今年はもうこれっしょ。

コロナ禍によって音楽をやることの意味を見失いかけたユーミンが、それでも今の時代の空気をパッケージするのがポピュラー音楽家の使命だと奮起して作ったという、本人にとっても思い入れの強いであろうアルバムです。

アルバムタイトル曲自体は昨年の段階でシングルリリースされてはいたのですが、今このタイトルを見ると、このコロナ時代を象徴するワードに見えてしまうあたりは持ってるなぁと思います。

コロナ以前には次回作としてリゾート感のあるアルバムを構想していたらしいですが、それを打っちゃって制作した本作は、全体にシリアスで切実で、それでいて優しくて押し付けがましくなく元気が出る作品です。

歌声も、音楽番組とかで生で歌ってるのを見ると声出なくなってきてるなぁと思ってしまったりもしますが、音源で聴くと昔のちょっとアホっぽいくらいの歌い方から想像つかないほど落ち着いていて、声だけでもう深い説得力があって、老いることも悪くないと思います。

静かに、しかし切実に、壮大に、いや、荘厳とすら言える幕開けの「1920」から、リズムのノリは良くなりながらも同じ切実さで地続きに始まるノートルダムが早くも本作のハイライトの一つ。

重なる白骨を引き離すとき 砂になって崩れる
それは美しい愛の結末

という歌詞は、本気で泣きそうになっちゃうし今年の個人的No.1リリックです。

その壮大さからすると、やや俯瞰的な一人称でありつつもパーソナルな内容になって、でもやはり切実な空気感は引き継いでいる「離れる日が来るなんて」、そこからさらに個人的な視点に着地したような「雪の道しるべ」が第二のハイライトで、CMでもお馴染みのサビはメロディと歌声だけでも全身が比喩表現ではなく本当に震えてしまうくらいの感動があります。エモいなんて軽いものじゃなく、切なさであり美しさであり、でもそれだけじゃない何か大きな感情に満たされます。

ただ、個人的にここまでの4曲があまりにも好きすぎて、その後ちょっとテンションが落ちてしまうのがもったいないところ。
もちろん、シティポップとかR&Bとかラテンとか王道バラードとか色んな要素を詰め込みつつ一貫して体に深く響いてくるサウンドを維持していて聴いていて飽きることはないんですけど、前半が良すぎるためのギャップが......。

ただ、最後の一曲、表題曲でもある「深海の街」がめちゃくちゃ好きなので、「N」という文字の形のように上がって一旦ちょい下がって最後爆上がりで結果めちゃくちゃ好きっていう感じっす。はい。
深い低音を鳴らすベースと、泡とか砂っぽい隠し味の音と、サビで炸裂するジャコジャコしたギターが全部まさに深海というサウンドで、往年のシティポップを現代にアップデートしたような、今までやってきて今なおやってる熟練の松任谷ご夫妻だからこその説得力ある一曲になってます。

実はアルバム出ると発表される前から今年は井上陽水とかからの流れでユーミンの有名曲も結構聴いてハマっていたので、自分の中でもタイムリーでした。
なおかつ、コロナ時代の空気を鮮烈にそのまま真空パックした音楽でもあり、何よりあの年齢で未だにこれだけ単純に良い音楽を作ってしまうのかという畏怖に近いものも感じさせる、まさに今年を象徴する名盤です。

余談ですが今年聴いてたユーミンの有名曲の中では「リフレインが叫んでる」「Blizzard」が2強で好き。






はい、というわけで、今年の私的アルバムランキングでした!
今年もなんだかんだいい音楽との出会いが多かったなぁと。
来年の目標は洋楽の新作も色々聴きつつ、デヴィッド・ボウイレディオヘッドのアルバムをちゃんと聴きつつ、井上陽水を全曲聴くことです!多すぎて難しいかな。でも音楽を楽しむ姿勢だけはね、崩さずに踊り続けたい!ではみなさま良いお年を!ばいちゃ!

植田界隈ケーキ屋巡りの旅

木曜日なので植田界隈でケーキ屋巡りをしてきました。
なぜ木曜日なのでかというと、私が火木休みでケーキ屋が大抵火曜日休みだからです。

今はマンションを借りていつつまだ住んではいない状態なので親に隠れてケーキを食べまくるには最高の時期なんですよね。糖尿病で死ね。


さて、それでは食べたケーキを紹介します。



一発目はレイクウッドのショートケーキ。

Lakewood | レイクウッド 名古屋市天白区でケーキや焼き菓子を販売

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私普段はあんまりショートケーキ食べなくて、それは生クリームがくどくてしんどくなってくるからなんですけど、ここのは食べやすかったですね。
コクはありつつも甘すぎずすっきりした味わいの生クリーム。
そしてクリームよりスポンジ部分の方が多いくらいなんだけど、スポンジがまたふわっふわの口溶けでクリームと一緒にすっと溶けていく感じ。
全体にシンプルで儚い印象のケーキ。それがまた食べたいという気持ちにさせてくれます。






続いてラ・ファブリック・デュ・スリールのなんとかかんとか。

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名前を忘れちゃってサイトで見ても載ってなかったのでなんとかかんとかで失礼します。

シンプルなさっきのショートケーキと対照的に、核の部分がラムの効いた生チョコみたいなやつで、そのまわりにクリームの層があって、その上をホワイトっぽいチョコでコーティングしてあります。
さらに土台はクッキー生地、上には黒豆(かと思ったらラムレーズンやった)が載ってる複雑怪奇なケーキです。

フォークを入れるたび毎に、各層の取れ方の比率が変わって、一口毎にラムが濃厚だったり、甘くてクリーミーだったり、微妙な味わいの違いを楽しめます。
でも全体にラムがかなりめちゃくちゃ効いてるので下戸の私にはまだ早い感じはあるかも。





最後はピネードナポリモンブラン?。

https://pinede.allhearts.company/shops/109/

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なんかハーブかスパイス的な葉っぱが刺さってて一瞬カレー食ってんのかと思うような香りがふわっと漂ってきます。
土台がタルトなんだけど、しっとりもさもさしててバターとお砂糖はボニーとクライド並みに凶悪で美しいコンビなんだと実感させられます。
栗の紐の下にクリームと栗の甘露煮が入ってます。
洋梨の破片みたいなのもちょびっと入ってたりして、栗感は濃くも全体にかなりさっぱりした味わい。でも甘い!
食べやすくも満足感もしっかりある逸品でした。



さて、何でこんな記事を書いたかというと、一人でケーキ食うの寂しいってのと、ケーキ屋さんって店名も品名も客に覚えさせる気ゼロなのでメモっとかないとどこの何が美味しかったかすぐ忘れちゃうからです。
私の下には味蕾が付いてないので食レポは適当ですがどれも美味しかったので近所の方はぜひぜひ〜。

タイタニック

仮にもね、映画ファンを名乗っていながら、今さら『タイタニック』を観るっていう。
別に「こんな誰でも観てる超大作なんか俺は絶対観ないから!」っていう反骨精神ではなくて、ただ単に長すぎて気力が湧かないお年頃だっただけなんですけど、実際観てみて反省しました。
こんな超名作エモエモムービーを観ていなかったなんて俺は馬鹿か!!!

タイタニック (字幕版)

タイタニック (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video



一応ざっくりあらすじを書いておくと、1912年に起きたタイタニック号沈没の事実を基に、架空のキャラクターである、幸運によってタイタニックに乗れることとなった貧乏人ジャックと、望まぬ結婚のために乗船した令嬢ローズとの身分違いの恋を描いたラブストーリーですな。



結末までは書かないけど展開とかそこそこネタバレしてます。



もう何もかもがズルい。
絶対に泣けるように設計されている映像による暴力のような映画でありまして、そうと分かっていてもやっぱり泣かされてしまうので好きだと言わざるを得ないっつうね。ベタがほんとに好きなの......。

まずもう2人の関係がずるいっしょ。不倫で純愛っていう。純粋に応援したくなりつつ、背徳のハラハラもちゃんとあって、やばい。

からの、恋愛映画でありつつパニックムービーでもあるっていう、It's a 吊り橋 effect!!
起承転結の化身かよってくらいに起承恋愛からの転でのパニックのハラハラの起伏が見事。

恋愛パートの、映画史上最高といっても過言ではない名場面のあそこなんかはマジックアワーの美しい夕景と感情揺さぶりすぎる主題歌のインストが流れることでもはや科学的に泣かされるんです。
同じく、ハラハラパニックディザスタースペクタクルの場面では、ピカチュウショックを誘発しようとするかのような光の明滅だったり、「深呼吸して」と呼びかけて観客の呼吸までも操る演出によって科学的に臨場感を植え付けられます。
パチンコの光の点滅に中毒性があるみたいな話を聞いたことがありますが、本作ももはやそれ。
あらゆる手を使って無理矢理に感情を揺さぶってくる様は、これぞほんとのマインドファックムービーと呼びたい!

私はこれてっきり船の中だけの話だと思ってたんですが、冒頭は現代パートで、そこで「これ伏線ですよ」と声高に叫びながら伏線をばら撒き、それをクライマックス以降でどんどん回収していって、予告されているのに泣くのを防げない私はもう怪盗キッドに対する中森警部であります。



そんで、キャストが良すぎる。
脇役の方々も、顔からして嫌な金持ち感をハツラツと発散してるローズのフィアンセに、同じく分からず屋さん全開のママに、ミザリーのイメージでヤバいやつかと思ったらただのいい人だったおばちゃんなどなど賑やか。

ディカプリオは今やなんか顔でっかいおっちゃんですが、この時は本当に美しい。
綺麗なんだけど自由人の奔放さも感じられて、こいつに助けられたら俺でも惚れるわと思っちゃう。ミスチルの桜井がさっき録画しておいたのもこれなんですかね。

そしてケイト・ウィンスレットはもう、好きですよ。
エターナルサンシャイン で、愛を読むひとで、とらわれて夏で......今まで幾度彼女に恋をしたことか。それでも何度でも何度でも何度でも立ち上がりまた恋してしまうんですケイト・ウィンスレット氏に。おっぱい。
僭越ながら私もディカプリオになって彼女に恋した3時間でした。たった3時間の恋。映画。それが乗船していたたった数日の恋だった2人の関係と重なり、しかしその短い記憶が永遠に焼き付くんですよ。エモい。

キャストだけでもエモいですが、もちろん演出の面でも、恋愛映画に必須な疑似恋愛に陥ってしまうような胸キュン名場面もざっくざく。百発百中・伝説のガンマンの如く私のハートを射抜きます。
出会いからして完璧なら、2人の視線の会話も、地下のパーティーも、車のあからさまな暗示に止めるエロティックさも、斧を振り回すところでさえ、今私〜恋をしている〜と俺の中のあいみょんが歌い出すほどのきゅんきゅんをありがとう😊



そろそろ何言ってるか分かんなくなってきたので結末についてですが、良すぎることない!?エモエモのエモじゃない!?
ネタバレ回避のために詳しくは書けないけど、あの終わり方はズルい。
Wind is blowing from the Aegean〜〜♪ですね......。人生............。ライフイズビューティフル。約束は守るもの。

もちろん、家のスピーカーで迷惑にならない程度の大音量で聴く主題歌も最高。しばらく毎日聴くと思う。


そんな感じで、まさか自分がこんだけベタな作品にどハマりするとは思っていなかったような、でも「ベルイマン好き」とか言いながら結局こういうベタな商業主義的映画にコロっと参ってしまうのが自分らしさな気もしつつ、何はともあれ今まで観た映画でも屈指の大好きな作品となりました。やれやれ。




余談

この2人を再び共演させた「レボリューショナリーロード」って映画、まじでうんこだなと思う(あれはあれで大好き)

小川勝己『ぼくらはみんな閉じている』感想


小川勝己の第一短編集。


小川勝己の短編読むのは初めてでしたが、長編と同じくセックスドラッグバイオレンスエモーションな感じでありつつ、シチュエーションとかはバラエティに富んでいて、1話1話楽しんで読むことが出来ました。

ミステリ的な要素はほぼなくって、オチが全体にちょっと弱い気はしますが、この人の文章を読んでるだけで恍惚としてしまう私のようなファンには至福の一冊です。

各話独立した短編ですか、表題の「ぼくらはみんな閉じている」が本書全体に通底するテーマのようにもなっていて、まとまりのある短編集でした。

また、各話の扉絵も良かったです。サブカル系騙し絵、みたいな感じで。

以下各話感想。





「点滴」

1話目から、病院という閉じた空間と父親によって閉ざされた主人公の人生が重なる、閉塞感たっぷりで陰鬱なお話です。

小川勝己の最大の持ち味である鬱屈とか鬱憤というものがじわじわと描かれ、ムカつくんだけど引き込まれます。怒りというのはエンターテイメントなんだと、この人の本を読んでると思いますね。
痛快でありつつ絶望的な結末はまさに小川印。1話目からなんとも言えぬ余韻に浸ります。




「スマイル・フォー・ミー」

バンドをやりたかったのにヤクザになってしまった男と、その兄貴分と、1人の女のお話。

1行目から人生のやるせなさを剥き身で突きつけてきて嫌な気持ちになります。
パワハラだのなんだのという今の世の中にあって、あのクライマックスはなかなか胸のすくものではありますが、そのあともうどうしようもないってのは前話と同じく。
そんでも、こっちのが残酷ながら美しく、まだしも救いがある気がします。エモい。





「陽炎」

中年に差し掛かった主人公が中学生の少年とのセックスに溺れていくお話。

死を描いた前の2話から一転して性について。
まずは冒頭の映像的に映える出会いのシーンが美しいですね。陽炎の中に立つ美少年の図には、男に興味ない私でもハッとさせられました。
夫へのフラストレーション、少年への欲情、若さへの羨望と嫉妬......そうした負の感情が渦巻き渦巻いた末の、静かな余韻の残る結末が堪らんです。涅槃。





「ぼくらはみんな閉じている」

目が覚めると監禁されていた主人公は、恋人に関する身に覚えのない恨み言を聞かされて......。

出オチといえばあまりにも出オチな冒頭一文のテンションに笑いますが、どうしてそうなった!?と作者を問い詰めたくなるくらいシリアスな話に展開していくギャップが面白いです。
この短編のみならず、著者の根本的な創作のテーマそのものを端的に説明するような一片であり、表題作になるのも納得ですが、同時にあまりに説明的すぎる気もしてしまいます。
しかし某文豪の超有名短編を現代人の心の闇()バージョンにアプデするというアイデアは凄い。
直接的には登場しない本作の"ヒロイン"が、しかし小川勝己が描くヒロイン像を代表している気もしますね。





「視線の快楽」

うだつの上がらない売れない作家の主人公は、ある日妻の浮気現場に遭遇するが......。

これはオーソドックスに面白い......といってもエロ要素濃いめなんですけど、話の筋はシンプルで分かりやすく面白いですね。
インパクトのある発端から、(一応)まともだった主人公のヤバみがどんどんエスカレートしていき、やりすぎなラストシーンには笑っちゃいました。
設定としては「陽炎」のアザーサイドみたいな感もありますが、幻想風味だったあちらに比べてこっちはとことん低俗。個人的にはこっちのがより好きですね。





「好き好き大好き」

目が覚めると隣で見知らぬババアが全裸で寝ていた......という悍ましくも笑える発端からストーカーの恐ろしさを描き出すサイコスリラー風の世にも奇妙な物語

とにかく、厭ですね。
そもそも冒頭からして厭なのに、そっからどんどんエスカレートしていきますからね。やめてくれと思う。
でも一方でちゃんと心のオアシスになるエロカワヒロインちゃんもいて、ムラムラと萎え萎えを繰り返させられるのが面白いっす。
オチはあまりにリアリティがなくて微妙ですが、たまにはこういうのも良いかと。





「胡鬼板心中」

絵師の兄に嫉妬して羽子板職人になった主人公。しかしやがて兄の様子がおかしくなり......。

江戸川乱歩山田風太郎を思わせる猟奇的でありながらも美しい怪奇短編。
いわゆる懐かしのエログロという感じですが、なんせ普段が普段なだけに著者の作品の中では大人しい方になってるのが笑えます。
それでも、兄への嫉妬や憧れの描写には独特のエモさがあって、昭和の怪奇小説をなぞるだけではない"らしさ"が滲み出ています。
美しくも悍ましい結末が良いですね。





「かっくん」

かっくんかっくんかっくん

これはもうかっくんとしか言いようがないかっくん
普通ならシュールにしてももうちょいかっくん理屈が分かりそうな感じは出してくると思うんだけどかっくん本作はガチで意味不明かっくん
一応の発端らしきものがちゃんと描かれているだけにかっくんそれがどうしてこうなったんや......という不条理さがありますかっくん
今まで読んだ小川勝己作品の中でこれだけがモロに浮いてる異色作ですがかっくんこういうユーモラスなのも書っくんだとギャップ萌えしましかっくんかっくんかっくんかっくんかっくんかっくんかっくんかっくん





「乳房男」

車のショールームで見かけた巨乳美女に一目惚れしてストーキングをはじめた主人公だが、ある日彼女に食事に誘われ......。

かっくんで箸休めしといてからのラストがこれってのがエグいっすね。
あまりに倒錯的な2人の関係に、自分は絶対こんなん嫌だけどちょっと甘美なものを感じてしまいます。汚すぎて、綺麗。

ここまでのお話は(あまりにシュールな「かっくん」を除き)、どれも「人と人は分かり合えない(=ぼくらはみんな閉じている)」がテーマでしたが、本書の最後に収録されたこの短編でようやく分り合い一つになれた2人を描いているのがエモいとともに、それがこんな作品であることにとんでもない歪みを感じます。
最後にこれが来ることで、本書全体がひとつのコンセプトアルバムのように感じられるのも見事。バラエティ豊かながらまとまりのある良い短編集でした。