偽物の映画館

観た映画の感想です。音楽と小説のこともたまに。

ゾンゲリア

サスペリア」のヒットにより"Zombie2"という映画が惨劇+サスペリアで「サンゲリア」という邦題を付けられました。ルチオ・フルチによるケッ作です。
そして、そのサンゲリアとゾンビを組み合わせて作られたのがこの作品の邦題なのです

 

 

 

 

ゾンゲリア [Blu-ray]

ゾンゲリア [Blu-ray]

 

 



 

 

製作年:1981
監督:ゲイリー・シャーマン

脚本:ロナルド・シャセット、ダン・オバノン
出演:ジェームズ・ファレンティノ、メロディ・アンダーソン

☆3.8点

 

 

ゾンゲリア」(!)

この酷い邦題のせいでクソゾンビ映画にしか見えませんが、その実、本作は真面目に丁寧に作られた異色のホラーミステリ映画なのです。

 

物悲しい音楽をバックに、色彩の乏しい浜辺の映像が流れるオープニング。カメラマンが登場し、美女をフレームに入れると、彼女の服の赤が色の少ない画面に鮮烈に映えます。
やがて服を脱ぎはじめる美女に見入っていると、なんとカメラマンが村人たちに惨殺されてしまいます。衝撃的なこのオープニングからして、「お、ふざけたタイトルの割にハイセンスだぞ?」と期待させてくれます。

 

本編は、カメラマン殺害事件を追うこの村の保安官が主人公。
彼が事件を追う様子と、村人たちが殺人を犯していく様子が淡々と描かれていきます。
淡々としすぎて、ともすれば退屈になってしまいそうですが、ギリギリのラインでアンニュイだけど退屈ではない独特の雰囲気になっています。
というのも、主人公の側の捜査パートは単調な代わりに、殺人シーンは結構グロかったりするからで......。美人ナースの目ん玉お注射や顔面ドロドロなどなど、シリアスな作風なのにそこだけバカバカしいゴア描写がちょいちょい挟まれたら退屈はしないですよね。

グロ描写ではないですが、旅行中の一家が空き家で襲われるシーンもいかにもB級ホラーらしくて好きです。

また、個性的なキャラクターも魅力的で、特に死体修繕大好きな葬儀屋のドッブスと、冒頭に登場した怪しい村人代表の美女がいい味出してます。

 

後半で主人公が村で起きている奇妙な出来事に気付いていくところからは、いよいよ「何が起きているのか?」というミステリーとしての興味で引っ張ってくれます。
そう、実は村では死者が復活していたのです!(ここも驚きどころのはずなのに邦題のせいで「知ってたよ」としか思えませんね)。
ここで面白いのが、本作のゾンビは(いかにもな邦題に反して)半分腐ってたり人を食ったりしないところです。「ナイト・オブ・ザ・リビングデッド」以降の映画界ではゾンビ=人を食う という図式が一般化しましたが、それ以前の映画に出てくるゾンビはヴードゥーの魔力によって蘇った死者にすぎず、人を食べる設定はなかったようです。かく言う私も「ホワイトゾンビ」とか観たことないのではっきりしたことは言えませんが、こうしたゾンビの設定もこの作品の上品さに繋がっているかと思います。

 

そしてやはり特筆すべきはラストです。

全編に横溢していた退廃的な雰囲気がついに爆発し、世界が崩壊していくようなカタストロフに襲われます。なんてかっこつけた文章を書いてしまいましたが、こういう大仰な書き方が嫌じゃない人は楽しめるかと思います。

 

 

※以下本作、及び似たオチの某作の結末に触れるので観てない方、某作にピンと来ない方はご注意ください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、そう、本作のオチは「主人公は実はゾンビだった」というものです。

 どうです。似てますでしょ、1999年の某作に。

 ただ、本作と某作を比べた場合、某作の方が明らかに伏線の貼り方が上手いです。某作のとあるシーンは真相を知ってから見ると上手すぎて鳥肌ものですが、本作には眼を見張るような伏線はなかったです。まぁ、後発の方が出来が良くなるのは妥当なことですが。

 

さて、本作について。

まず、村人の多くがゾンビであることについては、教師である主人公の妻・ジャネットが、授業の中で

「彼らは死んではいるけれど見事にいきてる人間の真似ができる」

 と言っているのが伏線っちゃ伏線ですね。

 主人公がゾンビであることについては、ゾンビを作っているドッブスが

「死人は教えたこと以外は忘れるゾンビなのだ」

と仄めかしています。

 

しかしこれらはどちらも台詞で取って付けたように説明しているだけ。その他に特に伏線らしいものが見当たらないのがちょっと惜しいかなと思ってしまいます。

 

とはいえ、フィルム上映でゾンビについて明かし、更にそのフィルムの続きで主人公がゾンビだと明かす演出はとてもカッコ良かったです。こんなスタイリッシュなネタバラシをしてくれれば細かいことはどうでもよくなってしまいますね。

 

というわけで邦題のクソさに合わないシリアスな野心作でした。周りの誰も、そして自分の記憶すらも信じられなくなるという恐怖が見事に描かれた傑作です。

 

ちなみに原題は"dead & buried"。観終わってから原題を見るとなかなか味わい深いです。

キートンの探偵学入門

バスター・キートン

その名前は知っていましたが、チャップリンと並んでサイレント期のコメディ映画を代表する古い人くらいの認識しかありませんでした。監督・脚本・主演、全部自分でやってるんだっけ、凄いよね、でも100年くらい前の人だよね?今観たって古びてるんじゃないの?と。

 

 

 

キートンの探偵学入門【淀川長治解説映像付き】 [DVD]

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製作年:1924
監督:バスター・キートン
出演:バスター・キートン、キャサリン・マクガイア、ジョー・キートン、ウォード・クレイン

 

☆4.0点

 

 

ごめんなさい!100年近く前の作品だけど今見ても凄かったです!

というわけで、今回は私にとってキートン初体験となったこの作品の凄かったところをざっくり4つに分けて紹介します。

 

 

1.アイデア溢れる映像が凄い!

 1924年の映画です。CG技術なんか影も形もないどころか、色すらありません。白黒です。

しかし、現代のような技術がない分、アイデアだけで様々な工夫を凝らした映像は面白く、「こう撮るのか!」「どうやって撮ってるのこれ?」という驚きや不思議さは、よく出来た奇術を観ているようですらありました。

 例えば夢の世界に入るシーン。夢というよりは幽体離脱みたいになってますが、キートンから半透明なキートンが抜け出てくるシーン、これ当時の技術でどうやって編集してるんでしょう。

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幽体離脱

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話しかけるも本体はぐっすり寝てます

 

 

 

 2.セリフなしでも笑えるユーモアが凄い!

 なんせ1924年の作品ですから、当然の如くモノクロ&サイレントです。もちろんところどころで説明やセリフの字幕は出るのですが、それだけでは言葉によるギャグはほとんど使えません。

 それでも動きだけで何が起きているか分かり、動きだけでギャグを連発して笑わせてくれるから凄いんです。

 ギャグの質も、ドタバタ劇でありながらどこか知的で上品なところがあり、100年経った今も古びていませんでした。

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お約束の尾行コント

 



3.夢と現実が綺麗に纏まったストーリーが凄い!

本作は現実でのエピソードの間に、キートンの夢のパートが挟まれた構成になっています。

現実ではひょんなことから濡れ衣を着せられてしまう三枚目なキートン。しかし夢の中では彼は名探偵SHERLOCK JR.になって、悪い奴らの奸智を見事にかわしていきます。

もちろん今時のミステリーみたいに夢と現実が複雑に絡み合ってラストでどんでん返るなんてことはありません。でも、夢のハッピーエンドから現実のエンディングへの流れが綺麗で、夢から醒めたあとの夢みたいな多幸感が最高でした。

 

 

 

4.コメディなのに溢れ出る詩情が凄い!
「夢」というものがテーマだと、やはり幻想的な雰囲気や現実離れした美しさを期待してしまいますが、この作品はそこのところもばっちしでした。

夢のシーンでの、映画の中に入って色んな場所を旅するところや、車で湖を泳いだりするところは、ギャグでありながら詩的な美しさに満ちていて、忘れられない名シーンだと思います。

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映画の画面の中へ......

 

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車で水上をドライブデート。なんてロマンチック!

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 下半分はお留守番

 

また、ストーリーもシンプルではありながら 恋人の愛を取り戻す綺麗なラブストーリーになっています。一つだけ気になるのは、現実では結局キートン何もしてないところですが、まぁ夢で頑張ったからおっけーということでしょう......。

 

 

 

観る前は古典のお勉強みたいなつもりでいましたが、実際に観てみると一気に引き込まれてしまいました。

古い映画と侮るなかれ、古いからこそのクラシカルな雰囲気と、古びない瑞々しい美しさを併せ持った名作ですね。

これから他のキートン作品も折に触れて観ていきたいです。

失恋の傷口に塩を塗る恋愛映画7選

 

☆まえがき

フラれた時、モテる人ならコメディ映画でも観てすぐにつらさを忘れて次の恋に向かうものでしょう。でもね、私のような異性にモテる要素皆無のゴミクズ野郎は、つらい映画を観たりつらい音楽を聴いたりしていつまでもつらい気分に浸って悦に入ってるわけですよ。実にゴミクズである。

さて、今回はそんなゴミクズな野郎どもにオススメしたい、失恋の傷口に塩を塗る映画7選を紹介したいと思います。Let's 死にたくなろうぜ!
ちなみに普段恋愛映画をあまり観ないのでセレクトはめっちゃベタです。ごめんなさい。

 

 


1.セレンディピティ

 

セレンディピティ~恋人たちのニューヨーク~ [DVD]

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製作年:2001
監督:ピーター・チェルソム

 

 

さて、運命の恋って信じますか?
私みたいな非モテゴミクズ野郎ほどそういうありもしない幻想を追ってしまうものだと思いますが、この映画はそんな運命の恋を描いたベタ甘ロマンティックラブストーリーです。

クリスマス前、デパートに恋人へのプレゼントを買いに来ていたジョナサンとサラは同じ商品に同時に手をふれて出会います。図書館で妄想するやつかよ!クソが!
その場で一度は別れた2人ですが、偶然にも同じ日にまた再開し、一夜限りのデートをします。どんどん惹かれ合う2人ですが、「私たちが本当に運命で結ばれているなら、ここで名前以外のことを知らずに別れてもまた出会えるはずだわ」といって"とある小さすぎるお互いのヒント"だけを残して別れます。
お互いの生活に戻る2人。それぞれ恋人との結婚を考えながらも、あの日の出会いが忘れられず、こっそり運命の相手を探す日々が続きます。そして迎えるハッピーエンドは美しいのでしょう。自分の本当の気持ちに向き合って、最後まで諦めずに運命の人を探し、幸せを手に入れた2人の姿に強者の方々は勇気をもらったり涙を流したりするはずです。

でもね、我々ゴミクズは、わけのわからない運命とかいう戯言のせいで捨てられた元の恋人の立場からこう叫ぶはずです。
「あの女、ぶっ殺す」

 

 


2.エターナル・サンシャイン

 

これは前に書いたので割愛します。詳しくはこちら→エターナル・サンシャイン - 偽物の映画館


つらい恋の記憶を消せるとしたら、どうしますか?という考えたくもない問題提起をしてくるクソ映画です(傑作)。

 

 

 

3.秒速5センチメートル

 

 

秒速5センチメートル

秒速5センチメートル

 

 

製作年:2007
監督:新海誠

 

君の名は。」以前の新海誠の代表作です。
こじらせてるくせになんだかんだめちゃモテ野郎のこじれた恋愛模様を観せられて気持ち悪いのと、でも中高生の時にあんなこと経験したかったわ〜という強烈な嫉妬とか、あとなんか映像が綺麗すぎてよく分からないけど死にたい気持ちになったりとか、とにかく自分がどうしてこんなにつらいのかは上手く把握できないままつらさだけをぶち込まれる不愉快な映画です。

 

 


4.ブルー・バレンタイン

 

 

ブルーバレンタイン

ブルーバレンタイン

 

 

製作年:2010
監督:デレク・シアンフランス

嫌な恋愛映画の代名詞みたいな作品です。

倦怠期真っ只中のディーンとシンディの夫婦が離婚するまでの丸1日と、彼らが出会って結婚するまでの幸せな日々を交互に描いているのが素晴らしい(嫌らしい)ところです。

 

幸せ期を見ていることで、「これが後に倦怠期になってしまうのだなぁ」という強烈な無常観に襲われます。幸せ期ではお互いの好きだったところが、倦怠期ではすれ違いのタネでしかなかったりするのもしんどいですね。
それと同時に、倦怠期を見ていることで、幸せ期に描かれる些細な価値観の違いに対して「こんな風だから最初からダメだったんだ......」というしんどさも同時に味わわされます。

そう、プラスとマイナスを掛け合わせても、マイナスの絶対値が大きくなるだけなのです。プラス(幸せ)とはなんと脆弱なのでしょう......。まぁ諸行が無常であることなど平家物語の時代から分かりきっていたことですけどね。

 

「夫婦で観てはいけない映画」と呼ばれているのをよく見かけますが、結婚したことがない人間にとっても、「結婚してすらこうなるのか......」という恐怖を突き付けてくるヤバい映画なのです。
ちなみに、ラブホに行くシーンが特にムリなので注目してほしいですにゃん。

 

 


5.ムード・インディゴ うたかたの日々

 

 

 

製作年:2013
監督:ミシェル・ゴンドリー

 

さて、続きましてはバカみたいにハッピーで結婚してもラブラブなカップルが出てくるこの作品です。

莫大な財産を持っていて働かずに優雅な暮らしを送っている主人公のコランは、友人宅でのパーティーで出会ったお嬢様クロエと恋に落ちます。2人は瞬く間に距離を縮め、結婚し、豪勢な新婚旅行へ出かけ、幸せの絶頂を極めますが......。

 

というあらすじだけを見ると何の面白みもないありきたりなラブストーリーのようですが、この作品の唯一無二の特徴はファンタジーな世界観です。
水道管からウナギが出てきたり、料理がなぜか勝手に踊りだしたり、ピアノの音色に合ったカクテルを調合する「カクテルピアノ」という小道具が出てきたり、社交ダンスでなぜか足がぐにゃぐにゃになったり、文字では上手く伝わらなさそうな不思議でシュールな映像が、物語の本筋とは何の関係もなく連発されるところがキュートです。
でもこれ、作者の真意は分かりませんが、個人的には恋愛に酔っている時の頭がパッパラパーの浮かれポンチになっている状態を表しているのだと思います。

 

............ってそれじゃあただのお惚気ハッピーバカ映画じゃねえかって?
いやいや、この作品が「失恋の傷口に塩を塗」ってくるのは後半の超展開からです。詳しく書くとネタバレになっちゃうのでボカしますが、あんなに幸せだったのに、そして「ブルーバレンタイン」のように醒めることなくお互い想い続けているのに、それでもこの映画の結末は悲しいものなのです。
こんなん観ちゃったら、どんなに上手くいってたっていつかは必ず別れが来ることを突き付けられて恋なんてクソゲーだと思わされてしまいますね。

 

 


6.ラブ・アクチュアリー

 

 

 

 

 

製作年:2003

監督:リチャード・カーティス

 

クリスマスを1ヶ月後に控えた19人の男女の恋の物語を同時進行で描いた群像劇です。

この作品に関しては、シンプルにたくさんの恋愛模様を強制的に頭に流し込まれるのがしんどいです。

 

何せ、物語の描き方がめちゃくちゃうまい。
純愛から悲恋から幼い無垢な恋からエロいのまで、多くの登場人物それぞれの恋を混乱させずに描き分け、なおかつ全てを感情を揺さぶるようなクライマックスに収束させちゃうんですから、これはもう超絶技巧ですよ。

 

135分と長めの映画ですが、逆に言えばたったそれだけの時間で9つのラブストーリーを同時に観られるわけですからコスパ最強で、一本で9度しんどくなる、失意の中では絶対に見たくない傑作なのです。

 

個人的には、やはり友達の奥さんに許されない恋をしちゃう男の話が一番好きです。人生で初めて映画を観て泣いたかもしれません。

 

 


7.ルビー・スパークス

 

 

 製作年:2012
監督:ジョナサン・デイトン、ヴァレリー・ファリス

 

最後は、恋愛映画どころか、今まで観た全ての映画の中でもベスト10に入れちゃうくらい大好きで大嫌いなこの作品です。

 

スランプに陥った作家のカルヴィンは、夢に現れた女性を題材に小説を書き始めます。すると、なんと自分が書いた小説のヒロイン「ルビー」が現実世界に現れるのです。自分が書いた通りになる理想の彼女・ルビーに惹かれていくカルヴィンですが、誰とでも仲良くなれる明るいルビーに嫉妬を燃やして彼女を自分に都合がいいように書き換え、2人の関係は徐々に歪んでいきます......。

 

冴えない根暗の主人公が描く理想の女の子は、冴えない根暗の私にとってもまさに理想の女の子でした。


そんな彼女との日々はとても甘美で、主人公と一緒に私もどんどんルビーに心酔して行きました。だってどこの世界に一緒に『ブレイン・デッド』(※世界一大量の血糊を使った人体破壊グロテスクゾンビコメディ映画)を観て喜んでくれる女の子がいますか!どこの世界にクラブでパンティ咥えて「今、履いてないの!」なんて言ってくれる女の子がいますか!

ちょっと勃ったわ!

しかも彼女、自分の思い通りにならなかったらタイプライターに向かって設定を書き出すだけで思い通りになるんですよ。最高でしょ!?最高だと思ったあなたは私と同じゴミクズです。
そう、自分の思い通りになる女の子を望む時点で、自分のことしか愛せない、人を好きになる資格も能力もないゴミクズだと突き付けて来るんです。甘いラブコメだと思ってたのに急に牙を剥きやがって!
そして迎えるクライマックスのシーンは完全にホラーですよ。しかもどんなホラー映画よりも怖い。

 

しかし本当に怖いのはホラー展開よりも希望の見えるラストの方でした。希望が見えてはいるけれど、本当にそれは希望かい?と。また同じ失敗を繰り返すだけじゃねえの?と。
そして私は思うのです。もう恋なんてしない。

 

 


☆あとがき
さて、ちょっとベタなセレクトでしたが、私が実際に失恋したり、諦めたりした時に観て死にそうになった映画を中心に7本選んで観ました。
正直ここに挙げた映画は二度と観たくもないですが、つらい時に観るとより感情を揺さぶられる作品たちであることも間違いないと思います。
ドMなゴミクズ野郎の皆さんにおかれましては、ぜひこれらの作品を鑑賞して快感絶頂していただけましたら幸いです。

ルチオ・フルチの新デモンズ

ルチオ・フルチ。一部の悪趣......失礼、マニアたちからカルト的な支持を受ける巨匠の作品について私なんかがぐだぐだ書くのは畏れ多いですが、まぁどうせそんなにファンおらんやろ大丈夫大丈夫。

というわけで、今回は巨匠フルチ先生後期のこの作品です。

 

 

 

ルチオ・フルチの新デモンズ [DVD]

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製作年:1990
監督:ルチオ・フルチ
出演:

☆点

〈あらすじ〉

 

昔、悪魔と契約した尼僧たちが磔刑にされた歴史を持つ修道院。そこを調査する考古学者の主人公は、やがて磔にされた破戒尼僧の幻覚を見るようになり、調査にのめり込んでいく......。

 

 

今までフルチ作品は「地獄の門」「ビヨンド」「サンゲリア」という全盛期(?)のものしか見てきませんでした。今作は晩期の作品ということもあってか、分かりやすく大人しくなったかなぁという印象です。

なんせ観ていてちゃんとストーリーが分かります。 いや普通の映画だったらそんなん当たり前なんですけど、今まで観てきたフルチ映画は本当に何が起きてるのか分からなかった......。分からないままにやたらと熱の入った残酷描写を楽しんだもんですが、本作は分かりやすさと引き換えに残酷描写がちょっと物足りなくなった気がしてしまいます。

 

とは言っても腐ってもフルチ。
脈絡がなすぎてギャグにしか見えない殺人シーンはたくさんあったのでサイコーです。

そんな爆笑死に方ベスト3をちょっと紹介してみます。

 

第3位  何の脈絡もなく顔のない全裸の女幽霊にボウガンで射殺される。

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わけがわかりません。なぜ脱いでるのか、恐らく尼僧の霊なのになぜボウガンなのか、わけがわからずただシュールな絵面に爆笑するしか為すすべがありませんでした。

 

第2位  猫に目ん玉抉られる

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くっそ見辛いですが......。

猫パーンチ、あらまぁよしなさいうふふと、猫好きなおばちゃんが猫と戯れてると

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こうです。今後は猫には近寄らないことにします。

 

第1位  残酷!股裂拷問刑!

息子を尼僧に拉致られたパパ。森の中を息子の名前を呼びながら探します。

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 それに答えて助けを求める息子。

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 可哀想ですね。早く助けてあげて!と思いながら見ていると、次のカットでは......

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 ......何があったパパ......?

何の脈絡もなく、しかも元気に走ってた次の次くらいのカットではもうこれですよ。いつの間に森に罠を仕掛けていたのか......。てか霊じゃねえの?ちゃちい罠なんか使わずにもっと呪い殺すとかあるでしょうに!

でもこの後パパが二つの肉塊に成り果てるところで大爆笑したので最高の映画でした......。

 

ぶっちゃけ、見所なんてこの3つのシーンくらいしかありません。あとは何か変な刑事がぐだぐだと探偵小説論をぶつけど本筋と何の関係もないところとかミステリファンとしては笑いましたが。

ラストもよく分かんないままに何か盛り上がってあっさり終わるあたりは、B級映画としての潔い美学すら感じました。

 

物足りなさはあるけどなんだかんだいつも通り良い意味で時間を無駄にした感覚が楽しめるクソ映画でした。こんなん観るより他にすることがない自分の存在価値のなさを突き付けられます。

狂い咲きサンダーロード

先日、映画秘宝のオールタイムベストみたいなムックが出ました。パラっと立ち読みしただけで買っていないのでうろ覚えですが、上位には「ゾンビ」「悪魔のいけにえ」「マッドマックス 怒りのデスロード」など妥当な作品が並んでいましたが、その中に聞いたことないけど強烈なタイトル・ビジュアルの作品が......。それが今回ご紹介するこの作品です。

 

 

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製作年:1980
監督:石井岳龍
出演:山田辰夫、他

☆4.0点

 

〈あらすじ〉

トーリーはシンプルです。新道交法制定に伴い、暴走族グループたちが、片や「警察と仲良く愛される暴走族」を目指すエルボー連合(なんじゃそりゃ)を作り、片やスーパー右翼(なんじゃそりゃ)"国防挺身隊"に合併と、二分していく近未来の日本で、"魔墓呂死"の特攻隊長・仁がどちらの権力にも靡くことなく最後まで単身ツッパリ続けようとする。

 

「逆噴射家族」「蜜のあわれ」などで知られる(どっちも観てませんが)石井岳龍監督が学生時代に卒業制作として撮った作品です。学生映画でありながら劇場公開され、未だに絶大な支持を誇っています。この生い立ちからして伝説になるのに相応しいですよね。

 

学生映画らしく演技や編集の素人っぽさはありますが、その分、わけの分からない熱量が物凄いです。だってもう公式のコピーが「ロックンロール・ウルトラバイオレンス・ダイナマイト・ヘビーメタル・スーパームービー」ですからね!語彙が小学生かよ!

 

見始めてまずオープニングシーンにシビれます。
まずゾクの面々の格好が物凄くカッコいい。黒の革ジャンにリーゼントあたりはまぁカッコいいけど普通ですが、その中になんか口にトラバサミみたいなのはめてる人とかなんか顔を緑と赤に塗った人とかなんか大仏みたいなマスク被った人とか、"なんか変なビジュアルの人"がたくさん出て来て、特に意味はないですがワクワクします。そんな格好で落書きだらけの倉庫で無駄にドスの利いた声で喋る人たち。ずっとあの喋り方してて疲れないんでしょうか。恐るべき体力です。
そして流れ出す音楽も男臭くてロックでかっこいい。泉谷しげるの曲だそうで、イマドキの若者なので、泉谷しげるといえば妖怪の漫画描いてる人とよくごっちゃになる怖いおじさんくらいのイメージしかありませんでした。こんなカッケえロックミュージシャンだったのか......。この泉谷しげる及びPANTA&HALというバンド(頭脳警察の人らしいです、初耳)の曲は全編に渡ってうるさいくらいにずっと鳴っているのですが、そのうるささがこの作品の場合は邪魔にならないあたりズルいです。
またネオンライト風の文字で出るタイトルテロップもハイセンス!

 

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テレビ画面を写真撮ったので画質ゴミですが......。

 

からの間髪入れずに抗争シーンに突入!この辺の冒頭のスピード感あるヒキが絶妙で、何のグループと何のグループがどうして戦ってるのかさっぱり分からないのにテンションぶち上がります。
オープニングのことだけで長々と書いてしまいましたが、オープニングが最高なのでその後も熱に浮かされたように見入ってしまったのでやっぱオープニング大事です。

 

その後の展開は、まぁ人間関係はややこしいですが、要するに主人公が多数派に反抗してボロボロにされて復讐するというシンプルなものです。
凄いのは主人公がそこまで頑なに反抗する理由がはっきりと描かれないことです。楽しかった魔墓呂死での日々への愛着か、多数派への反感か、なんとなく意地張ってるのか、何なのか観ててよく分からないし、本人もよく分かってなさそうなんですよね。それが何ともリアルで、主人公の「よく分からない情熱」がそのままこの映画の「よく分からない良さ」とイコールになっている気がします。

なので、その情熱が行き着くクライマックスの戦いがやっぱり最大の見所です。
真っ黒なバトルスーツとヘルメットに身を包み、その辺のヤク中の小学生(なんじゃそりゃ!)たちと手を組んで国防挺身隊のやつらに復讐するために最後の特攻をするんです。シビれます。
実はこの辺低予算映画なのでアクションの派手さっていうのは冷静に観るとそれほどでもないんですが(ゆーて学生映画であんなに爆発とかしてるの凄えっすけど)、なんせこっちももう冷静じゃねえんだ、テレビ画面から5cmくらいの距離に噛り付いて見入ってしまいました。
そして、ボロボロになった主人公の最後......興を削ぐので書きませんが、彼の最後が素晴らしいです。

 

また、ここまで主人公メインで書いてきましたが、全てが終わってから後日談のように出てくる魔墓呂死の元リーダー健さんのその後も、何とも言えない余韻を残します。

 

とまぁ、興奮して長々と書いてしまいましたが、実はもっと簡単に二言で言い表せる作品です。
「熱量が凄え!」

「いいからみんな観ろ!」

 

 

 

......余談ですが、「バトルロワイアル広場」「バックブリーカー砦」「デスマッチ工場跡」などの印象的な地名がテロップで紹介されるのがシュールで笑いました。

冬の怪談 〜ぼくとワタシとおばあちゃんの物語〜

TSUTAYA FASもとまち店をご存知だろうか?愛知県豊田市の周囲に工場が多い場所に立地するTSUTAYAで、その土地柄から車で行くと混んだり道が複雑だったりとけっこう面倒なお店なのである。だが、そこには愛知県の他のTSUTAYAではなかなか置いてないマイナーなホラーの品揃えが多い。

 

ってわけで、そこでついつい借りちゃったのがこの作品なのでした......。

 

 

冬の怪談 [DVD]

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製作年:2009
監督:上野コオイチ
出演:矢島舞美福田花音

☆0.6点

 


アイドルにハマれないタイプの人間です。正直アイドルの追っかけとかしてる人の気が知れないと思います。でもそれはそれとしてやっぱり可愛い女の子を見るのは幸せなので、B級アイドルホラー映画なんかはたまに観たくなってしまうのです。

 

トーリーはめちゃくちゃで、霊媒師だった主人公の祖母が亡くなったことでいままで彼女を恐れていた悪霊(いわゆるゾンビ)たちが現れる。そいつら若手霊媒師の矢島舞美ちゃんが倒していき、主人公とその妹を守ろうとする、ってな具合の私の文章の下手さをさっぴいても見るからにつまらないお話です。

実際に、見てると台詞でめちゃくちゃ説明するという無粋なことをやってもなお説明がよく分からなくて話についていけないというダメっぷり。演出もボイスチェンジャーにかけたような気持ち悪い声、ひゅぅぅぅ〜んとかびょわぁぁぁ〜みたいな音、「明るさ」のツマミをぴいーっと下げただけみたいな妙に暗い画面など徹頭徹尾安っぽくて、ここまでくると素人臭さに親近感すら湧きます。
そんなつまらん映画でしたが、しかし70分飽きずに見ることができました。というのも......。

 

そう、今作に女子高生霊媒師役で出ている矢島舞美ちゃんですが、個人的に世の中の女性有名人の中でも鈴木咲や幼少期のアーシア・アルジェントや逢田みなみに並んでトップクラスに好きな外見なのです!
だから、どんなに映画の内容がつまらなくても彼女を見ていれば飽きることはありませんでした。どんなに映画の内容がつまらなくても。あとどんなに棒読みでも!いやまぁそもそも変人の役なので棒読みのがミステリアス感出てる気もします!そうです。私はあの子の味方なのです。
「ゾンビデオ」では高かった露出度が今回低めなのは("冬"の怪談
なので当然ですが)ちょっと残念。しかしそれゆえに際立つスカートとニーソの間に見えるふとももはバスの揺れ方よりも明確に私に人生の意味を教えてくれます。これを拝むために私は生まれてきたのだ。ふともも万歳。霊媒師の彼女ですが、攻撃方法は①十字架②お札③蹴り の3つだけ。そのためお話としてはくっそつまんないんですけど、あの綺麗な脚が美しい曲線を描いて繰り出す蹴りを見ているだけで幸せになれるので良かったです。

 

また、超絶美人の矢島舞美ちゃんには敵いませんが、中学生の妹役の福田花音ちゃんもめちゃくちゃ可愛かったです。自分ではロリコンじゃないと思ってたけどもしかしたらロリコンの気があるのかもしれません。あんな中学生の妹にめちゃくちゃ棒読みでも「ばっかじゃないの!」なんて罵られることができたなら死んでもいい。あんな可愛い友達の妹に朝出会って「おはようです」なんて言われたら私ストーカーになる。妹目当てで友達の家に通う。

 

また、超絶美少女の矢島舞美ちゃんと、ロリ系美少女の福田花音ちゃんには敵いませんが、ゾンビ化する主人公のクラスメイトの女の子も良かったです。具体的に露出するとかはないけど素人っぽい演技での色仕掛けが妙に生々しくて大いに性欲を刺激されました。ゾンビになったクラスのマドンナに食われて死にたい。いつか彼女が出来たらゾンビになって食べてもらいます。

 

そんな感じで、映画の内容は特に触れる気にもならないものでしたが、女性陣の美しさだけで見られるという点においてある意味とても模範的なアイドルホラーだと思います。また女の子ばっかり目についてしまいますが男共も超絶怒涛に童貞臭い主人公、なぜかラストでサイコサスペンス化する友人など、妙にいい味出してて印象に残っています。


見る価値ないけど男なら美少女目当てに見て損はない駄作でしょう。

フォロウィング

先日映画館で『スプリット』を観に行った際、クリストファー・ノーラン監督の最新作『ダンケルク』の予告編を観ました。圧倒されました。予告だけでこの迫力なら本編観たら私どぉなっちゃうの!?というわけで、絶対観に行こうと思いつつも、昔の低予算の作品が懐かしくもなり......これを借りて来たのでした。

 

 

フォロウィング [DVD]

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製作年:1998
監督:クリストファー・ノーラン
出演:ジェレミー・セオボルド、アレックス・ハウ、ルーシー・ラッセル

 

☆4.5点

 

〈あらすじ〉

自称作家志望の主人公の趣味は、街で見かけた人の後を尾けること。尾けるだけで何もしない。ただの人間観察。ある時、彼は尾けていた男に勘付かれてしまう。しかし、その男も人間観察のために泥棒をする変人で......。

 

 

2回目の鑑賞。恐らく大学1年生ぐらいの時に初めて観たんだったと思います。あれから4年経ち、今や社会人1年生ですが、この映画はあの頃と同じ興奮を味わわせてくれました。

Wikipedia先生で調べてみたところ、制作費は6000ドルとか。物凄く雑に1ドル→100円で計算すると60万くらい?映画の制作費についてよく知らないのでどれくらい少ないのかピンと来ませんが、次作の『メメント』でも既に900万ドル、最新作『インターステラー』に至っては1億6500万ドルというのを見ると数え間違いかと思うくらいの差ですよね。インステ約3万倍ですよ!?

でもでも、本作はそんな超低予算というハンデをものともしないどころか逆に武器にまでしてアイデアとセンスだけで戦っためちゃくちゃアツい作品なのです!

 

アツい、といっても、作品の雰囲気は冷たく硬質なフィルムノワールへのオマージュという感じ。
あえて白黒にしてあるのも、普通に撮れば出てしまうだろう映像の安っぽさを、クラシカルでシンプルなカッコよさに変えています。

そしてなんといっても凄いのが脚本の緻密さです。
メインの登場人物はたった3人。脇役を入れたって総勢5人だけ。時間も70分と中編並みのコンパクトさ。
そんな限られた予算、時間、キャラでここまで緻密なミステリが出来上がるとは......。

本作の最大の特徴はやはり時系列のシャッフルでしょう。
これは後の『メメント』でも(確か本作よりもより必然的に)使われている手法で、ノーランの「知的」というイメージの原点だろうと思います。
何せ時系列が全くバラバラになった状態で話が進むので、序盤は特に「これはいつなの?」「主人公なんでケガしてるの?」「そもそも何してるの?」などなど頭の上にでっかいクエスチョンマークが浮かびっぱなしです。
それゆえに、その謎が少しずつ解けていって、少しずつ物語の全貌が見えてくることそれ自体がカタルシスであり、話が進むたびに謎が少しずつ解けていくことで常に小さなカタルシスが連続している状態を味わえます。要は観てるだけで快感。
とはいえ、もちろんただバラバラの時系列の本来の構造を解いていくだけが本作の謎解きではなく、その果てにある意外な結末こそがキモなのです。なんならそれまでの描写も全てこの結末のための伏線だったにすぎません。ここに至ってついにドMなミステリファンたる観客は快感絶頂に至るわけです。少しずつ絵が見えていく興奮、そして最後のピースが嵌った時の快感、"パズルのような"という形容詞はこの作品のためにあると言っても過言ではありません。

ここまでパズル的緻密さに焦点を絞ってきたので、「ミステリ部分が凄いだけでストーリーつまんないんじゃね?」と思われるかもしれませんがそれは杞憂です。
確かに、アクションとか恋愛とか家族愛とか友情とかは描かれません。
しかし、狡猾な男の鮮やかな手口を味わうクライムサスペンスとして、また名もなき男の身に起こる悲劇として、本作は観客の興味を惹いて離さない優れた物語でもあるのです。エンドロールで主人公の名前が"The Young Man"となっているのも、都会の片隅で孤独に生きる我々のような凡人に起こり得る悲劇として恐怖を煽ってきます。

緻密な謎解きパズルにして、狡猾なダークヒーローの暗躍譚であり、孤独な現代人の恐怖譚でもある本作。ミステリ、フィルムノワール、どんでん返し、クリストファー・ノーランが好きな人には是非とも必ず絶対に観て欲しい傑作であり、どれだけ大作を撮ろうともノーラン作品の中でこれが不動のマイベストです。
いやでも『メメント』も同じく緻密だし『プレステージ』のてんこもりさも好きだし『インターステラー』の壮大さも『ダークナイト』の興奮も忘れがたく......嗚呼、I ♡ ノーラン